2020 Fiscal Year Research-status Report
社会的エンリッチメント環境が社会的・非社会的記憶能力に及ぼす影響
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19K21806
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山田 一夫 筑波大学, 人間系, 教授 (30282312)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
一谷 幸男 筑波大学, 人間系(名誉教授), 名誉教授 (80176289)
小澤 貴明 大阪大学, 蛋白質研究所, 助教 (90625352)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | ラット / 社会的再認記憶 / 環境エンリッチメント / 海馬 |
Outline of Annual Research Achievements |
社会的再認記憶は,集団内で同種他個体との関係を構築・維持し,複雑な社会組織を形成するための必須の能力である。この能力は社会的環境の影響を大きく受けることが明らかとなっており,離乳後からの隔離飼育による他個体との社会的交流のはく奪は,成体期において社会的再認記憶を障害する。近年,海馬の各下位領域が社会的記憶に重要な役割を担っていることを示す証拠が増えてきている。CA2領域は社会情報の処理機能全般に関与し,腹側CA1 領域は背側CA2で獲得された社会的情報の貯蔵と検索に重要であると考えられている。そこで本年度は,社会的環境が社会的再認記憶に与える影響の脳内メカニズムを探るため,海馬を標的として免疫組織化学的検索によって記憶課題遂行中のc-Fos発現を定量し,飼育条件間で比較した。 実験1では,見本期とテスト期の遅延時間を50分に設定し,Wistar-Imamichi系雄ラットが5匹の他個体の記憶を保持できているか検討した。その結果,10匹で飼育されたSE群は新奇個体と4匹の既知個体を弁別できていたが,1匹で飼育されたSI群では弁別できなかった。実験2では飼育環境によって遂行成績に違いがみられる社会的弁別課題のテスト期における海馬下位領域の脳活動を調べた。被験体は5匹の他個体を記憶できておらず,すべての標的脳領域においてFos陽性細胞数に群間差はみられなかった。ラットの活動性や探索に対する動機づけレベルや,統制条件として物体再認課題を用いたことが飼育条件間でFos発現レベルに差がみられなかった原因かもしれない。また,Fos陽性細胞数と様々な行動指標でみられた相関傾向から,背側歯状回は社会的記憶よりも文脈情報の処理に関与し,CA2領域は社会的記憶の形成に寄与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,社会的再認記憶に関与する脳部位についての検討を実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,薬理遺伝学的手法(designer receptors exclusively activated by designer drugs: DREADD)を用いて特定の脳領域の神経活動を活性化あるいは抑制することによる物体再認課題と社会的再認課題への影響を検討する。ラットを飼育条件(個別,標準,多頭)×DREADD操作(DREADD発現,統制)の計6群に振り分ける。高負荷の記憶に関与する脳領域(海馬CA2)にウイルスを投与して,興奮性グルタミン酸神経の活動を制御する。抑制条件では,行動実験の2週間前にAAV-CaMKⅡα-HA-hM4Di-IRES-mCitrineあるいはAAV-CaMKⅡα-GFP(統制条件)のいずれかを局所投与する。活性化実験では,AAV-CaMKⅡα-HA-hM3Dq-IRES-mCitrineあるいはAAV-CaMKⅡα-GFP(統制条件)を投与する。DREADDが完全に発現した後,各再認課題の見本期の40分前にClozapine N-Oxide (CNO)を腹腔内投与する。記憶課題の手続きは記憶負荷大条件とする。記憶課題の2時間後に灌流固定し,ラットの脳を取り出し,クリオスタットで脳切片を作成した後,抗c-Fos抗体と抗hemagglutinin (HA)抗体を用いて二重免疫蛍光染色を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナによる大学への入構規制によって,大学院生の短期雇用が予定よりできなかった。次年度使用額については,次年度に実施する実験の補助としての大学院生の雇用に充てる予定である。
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Research Products
(5 results)