2020 Fiscal Year Research-status Report
漸近双曲性とYoccoz's puzzleを用いたPalis予想解決への挑戦
Project/Area Number |
19K21835
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
高橋 博樹 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (00467440)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 力学系 / エノン写像 / 単峰写像 / 可算マルコフシフト |
Outline of Annual Research Achievements |
エノン写像の分岐問題を、Yoccozのパズルを用いて解析することが本研究開始当初の目標であった。エノン写像が一様双曲性を喪失する最初の分岐パラメーターにおけるダイナミクスの解析はある程度可能だが、この分岐パラメーター通過後の写像に関する解析は非常に難しい。そこで、エノン写像を直接考察するのではなく、その一次元モデルである単峰写像や、ある意味での記号モデルである可算マルコフシフトが生成する力学系を考察し、エノン写像の解析のための手がかりを得ることを試みた。この模索の過程で、力学系の周期軌道の周期無限大における漸近分布が大偏差原理に含まれる評価から従うことに気づき、以前に得た可算マルコフシフトの大偏差原理に関する結果の発展形として周期軌道の重み付き等分布定理を導いた(論文[4])。さらに、大偏差評価から周期軌道の等分布を導く議論には種々のバリエーションを設定でき、ゆえに様々な力学系について種々の周期軌道の等分布定理を示すことができることも発見した。この成功例として、次の二つの例を挙げておく:(i) 無限回繰り込み可能な単峰写像。周期軌道をうまく捉えるために「時間枠」を設け、等分布定理を証明することに成功した。(ii) Collet-Eckmann条件を満たす単峰写像。臨界点の影響がトポロジカルな意味で小さい「安全な周期軌道」という概念を導入し、リャプノフ指数で重みづけられた安全な周期軌道の集合が絶対連続不変確率測度に収束することを証明した。この二つの例に関する論文を現在、準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エノン写像自体の研究については、その難しさから本質的な進展はない。しかし、エノン写像に関連する単峰写像や可算マルコフシフトの力学系で、研究開始当初は全く予想していなかった有望な成果が挙がり、これらの成果のうちのいくつかはすでに論文として学術雑誌に受理されている。その他の成果を論文としてまとめる目処もついており、ランダム力学系理論とも絡めれば今後のさらなる発展が期待される。よって、本研究を総合的に判断し、「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
最初の分岐パラメーターでのエノン写像の周期軌道の等分布定理を導くことを視野に入れつつ、単峰写像、可算マルコフシフトの周期軌道の漸近分布を考察する。並行して、周期軌道による位相圧力の特徴づけを考察する。さらに、これらの考察を通じて得られた結果のランダム力学系への拡張を試みる。
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Causes of Carryover |
Covid19感染拡大防止のため、2020年度に予定されていた全ての国外出張、ほとんどの国内出張をキャンセルした。このため研究経費の大半を占めていた旅費の使用額が大幅減となり、次年度使用額が生じた。これらを主に2021年度に行う研究討論や学会参加のための旅費として使用する予定である。
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Research Products
(5 results)