2019 Fiscal Year Research-status Report
Study of electronic states in metals by thermally detected cyclotron resonances
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19K21841
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
徳永 将史 東京大学, 物性研究所, 准教授 (50300885)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | サイクロトロン共鳴 / トポロジカル半金属 / 強磁場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では光を透過しない金属的な試料に対してサイクロトロン共鳴の測定を行う実験系を開発し、金属の量子物性を調べることにある。その手法として目指している熱検出型サイクロトロン共鳴の実験において、装置開発の主要部分はテラヘルツ発生部と熱検出部の二つに分けられる。 前者の熱検出部に関してはこれまで我々のグループで開発してきた高速抵抗温度計を改良し、キャパシタンス温度計の開発を進めている。これまでの抵抗温度計を用いた方式では、温度計の磁気抵抗効果による寄与を補正する必要があり、本測定に入る前の予備測定に多くの時間が必要であった。今回開発したキャパシタンス温度計では30K以下の温度域でほぼ磁場の影響を受けない高感度の温度計測を実現した。本研究経費で購入したLCRメーターにより効率的なキャパシタンス較正を行い、標準的物質に対してはパルス強磁場下における瞬間的な磁気熱量効果の観測にも成功している。この開発を含む技術的な論文を現在Review of Scientific Instruments誌に投稿中である。 一方のテラヘルツ発振については量子カスケードレーザーを使った方法を進めている。日独仏の三カ国による国際共同研究によって量子カスケードレーザーによるテラヘルツ発振は実現している。発生されたテラヘルツ光を磁場中心におかれた試料に集光するため、テラヘルツ光を集光可能なTPXという素材を使ったレンズを特注した。このレンズを用いたプローブを作製し、テラヘルツ光の試料への集光にも成功している。 両者を組み合わせた熱検出型サイクロトロン共鳴に関して、グラファイトを対象とした実験を行ってみたが、現時点では期待した共鳴現象の検出ができていない。その原因は試料周辺の断熱性が不十分であるためと思われるため、試料保持部周辺の改良が必要とされている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年5月に代表者の徳永と協力者の木下がドイツのベルリンにあるPaul Drude Institute for Solid State Electronicsを訪問し、Grahn教授から量子カスケードレーザーについて教わり、素子の提供を受けた。その後木下がフランスのトゥールーズにある国立強磁場研究所のDrachenko博士を訪問し、量子カスケードレーザーを用いたTHz発振およびその検出方法について技術指導を受けた。 帰国後に、この量子カスケードレーザーを使ったサイクロトロン共鳴測定用のプローブを作製した。本研究では共鳴の有無を試料の発熱を通して検出するため、新たに開発した専用のキャパシタンス温度計を組み込んだプローブを構築している。このプローブでは量子カスケードレーザーから発生したテラヘルツ波をレンズ系で磁場中心まで送り届ける必要がある。Ge検出器を用いた測定で、期待通りのテラヘルツ伝送が実現していることを確認している。ただテラヘルツ光を連続発振させると素子からの発熱が大きくなることが確認されたため、大出力のパルス電源を導入することで、この問題を解決した。 熱検出サイクロトロン共鳴の実現について、対象物質としてグラファイトを用いた磁場中での実験を行ったが、現時点では共鳴の観測に成功していない。この実験ではテラヘルツを照射しない状況で起こるべき磁気熱量効果の評価も正しくできない状況であり、現状ではこのプローブにおいて試料付近の断熱性に問題があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在作製しているプローブでは試料から周囲への熱拡散が大きくなっているところに問題があると思われるので、まずそこを改善する。我々はこれまでテラヘルツ光を用いない環境下での磁気熱量効果の測定には実績があるので、その経験を生かして試料の固定方法等を改良する。 また量子カスケードレーザーの発熱を抑えるため、現状ではテラヘルツ光をパルス発振することにしている。磁場発生時間の限られるパルス磁場中において、テラヘルツ光の照射時間を短くすると、磁気共鳴時の光吸収による総発熱量が抑制されて検出が困難になることも考えられる。そこで研究の初期段階では14Tまでの磁場を発生可能な超伝導磁石を用いた定常磁場中での実験も併用して行う。 測定対象としては低温域で比熱が小さい試料が望ましいため、少数キャリア系の伝導体であるグラファイトやビスマスなどの単元素半金属を当初の対象とする。これらの物質に関してはサイクロトロン共鳴の先行研究があるため、過去の文献との整合性を確認する。両物質については純良な単結晶試料を所有しているので、すぐに実験を行うことができる。その後に、サイクロトロン共鳴の報告がない各種トポロジカル半金属にも対象を広げた実験を行う予定である。 現時点では一つの量子カスケードレーザー素子だけを用いてテストを行っている。この素子での測定が実現した後では、異なる波長の素子を追加で導入し、サイクロトロン有効質量の直接的な評価を行いたい。
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Causes of Carryover |
量子カスケードレーザーによる発熱による影響が想定より大きかったため、その対処に当初計画より多くの時間を費やしてしまった。そのため初年度中の実験に必要と見込まれた消耗品等の使用が、当初計画より少なくなった。発熱の問題は初年度中に解決できたため、2年目の研究では初年度にできなかった分も含めて多くの実験を行う予定である。
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Remarks |
Paul Drude Institute for Solid State ElectronicsのGrahn教授からテラヘルツ光を発生可能な量子カスケードレーザーの提供を受けた。またLNCMI-ToulouseのDrachenko博士から量子カスケードレーザーの使い方および検出法について指導を受けている。
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Research Products
(3 results)