2019 Fiscal Year Research-status Report
グラフェンナノリボンを用いた新しいスピンフィルタ機能の創製
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19K21850
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
新見 康洋 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (00574617)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | グラフェン / ナノリボン / トポロジー / スピンフィルタ |
Outline of Annual Research Achievements |
電子の電荷とスピンの自由度を利用するスピントロニクスと呼ばれる分野では、1980年代後半に巨大磁気抵抗効果が発見されたのを契機に、現在に至るまで多岐に渡る研究が行われ、実際に役に立つ形で利用されている。本研究課題では、グラフェン1次元鎖(ナノリボン)に生じる「グラフェン端状態」を用いて、スピントロニクスにこれまでなかったスピンフィルタ機能の実現を目的とする。 2019年度は、酸素及び水素プラズマを用いて、数層グラフェンの表面に、ジグザグ型の端のみを有する六角形の穴(ナノピット)を作り、それを原子間力顕微鏡で確認すること、さらに多数の六角形ナノピットをもつ数層グラフェン全体に電極付けをして輸送測定を行い、六角形ナノピットをもつグラフェンに特有の効果の観測を目指した。 まず数層グラフェン表面に、特徴的な六角形ナノピットを作製することに成功した。我々が保有する原子間力顕微鏡では原子分解能がないため、ジグザグ端かどうかの判別はこれだけではできないが、同条件で作製された走査トンネル顕微鏡像でも同種の六角形ナノピットが作製されており、そこでは六角形ナノピットの端はジグザグ端であることが証明されているので、今回作製した六角形ナノピットの端もジグザグ端であるとした。 さらに電極を取り付け、磁気抵抗を測定したところ、ゼロ磁場付近に弱局在に由来するピーク構造を観測した。このピーク構造は温度の上昇とともに消滅することから、弱局在効果だと断定できる。現在、弱局在ピークから位相緩和長などの物理量の算出を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初は、バルクのグラファイト表面に、六角形ナノピットを作製する手法は確立されていたが、グラフェンに対する方法は確立していなかった。そのためまず、シリコン基板上に化学気相蒸着(CVD)法により作製した単層グラフェンに対して、酸素及び水素プラズマを照射することで、バルク試料と同様に、ジグザグ端をもつ六角形ナノピットの作製を目指した。六角形ナノピットの作製は、東京大学大学院理学系研究科の福山寛教授、松井朋裕助教と連携して行った。CVDグラフェンの利点は、基板全体に、六角形ナノピットが複数形成される点である。これにより、六角形ナノピット間に挟まれたジグザグ端グラフェンナノリボンを探しやすくなる。プラズマ照射時間や酸素及び水素の圧力の条件をいくつか試したが、バルクグラファイト表面で作製されるような六角形ナノピットを作製することができなかった。これは、下面にあるグラファイト層の有無に起因していると考えられる。 そこで今度は、シリコン基板上に機械的剥離法で作製した数層グラフェンに対して、プラズマ照射で六角形ナノピットの作製を試みた。六角形サイズとしては、想定していたサイズ(1~10 μm)の1/10~1/100程度となってしまったが、六角形ナノピットを得ることに成功した。 得られた六角形ナノピットのサイズが小さかったので、ジグザグ端ナノリボンを作製することはできなかったが、端にジグザグ端をもつ六角形ナノピットが複数ある状況で輸送測定を行ったところ、通常の数層グラフェンでは観測されない、弱局在効果を観測することに成功し、現在その解析を進めているところである。 2019年度までに、数層グラフェンに対して六角形ナノピットが作製できたこと、さらに六角形ナノピットをもつ試料に対してのみ弱局在効果由来のピークが磁気抵抗に観測されたことから、「(2)おおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、酸素プラズマ及び水素プラズマの時間を最適化することにより、一辺が10 μm程度のジグザグ端をもつ六角形ナノピットを複数作製し、六角形ナノピットに挟まれる形で形成されるジグザグ端グラフェンナノリボンの作製を行っていく予定である。 上述したように、本来はジグザグ端グラフェンナノリボンを用いてスピンバルブ素子を作製する予定であったが、想定していたサイズよりも小さな六角形ナノピットしか形成できなかった。しかし、今後ジグザグ端グラフェンナノリボンの作製ができ次第、直ちにスピン輸送測定ができるように、2019年度の研究では、これまでのグラフェンスピンバルブ素子と同様に、シリコン基板上に、スコッチテープ法で劈開したグラフェンを用いて、面内スピンバルブ素子を作製し、信号を得るところまで成功している。今後は、ジグザグ端グラフェンナノリボンを用いた測定を行い、端のスピン状態を電界で制御可能なスピンフィルタを創製する。グラフェンナノリボンでスピンフィルタを実現できれば、1次元フラットバンド強磁性という未だ実証されていない物性物理の基本問題に答えるだけでなく、スピン抽出という新機能をスピントロニクスデバイスに付与できる。
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Research Products
(41 results)
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[Journal Article] Butterfly-shaped magnetoresistance in triangular-lattice antiferromagnet Ag2CrO22020
Author(s)
H. Taniguchi, M. Watanabe, M. Tokuda, S. Suzuki, E. Imada, T. Ibe, T. Arakawa, H. Yoshida, H. Ishizuka, K. Kobayashi, and Y. Niimi
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 10
Pages: 2525-1~7
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Presentation] カイラル磁性体CrNb3S6薄膜のスピン輸送測定2019
Author(s)
川原遼馬, 谷口祐紀, 河上司, Y. A. Alaoui, 荒川智紀, 乾皓人, 島本雄介, 高阪勇輔, 戸川欣彦, 小林研介, 新見康洋
Organizer
日本物理学会2019年秋季大会
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