2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K21855
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
岩下 靖孝 京都産業大学, 理学部, 准教授 (50552494)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 両親媒性粒子 / 粉体 / 濡れ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では「親水面と疎水面を併せ持つ両親媒性粒子からなる粉体と液体の混合系」という新規な粉体系の創成を目指している。粉体系では、界面活性剤ではよく知られている両親媒性の効果はほとんど研究されていない。そこで実際に両親媒性粉体粒子を作成し、液体との混合系が示す構造や物性の基礎的な特徴を解明する。 2020年度はピッカリングエマルション(PE)を利用した両親媒性粉体粒子の多量作成手法を確立できた:油水界面に部分濡れする微粒子を水と油に混合すると、微粒子が油水界面に吸着し、油水分散状態が安定化される。これがPEである。界面活性剤DDABの水溶液とパラフィンをパラフィンの融点以上で撹拌しながら、粒子直径が0.1mm程度のガラスビーズを加え、PEを形成した。次に溶液全体をパラフィンの融点以下に冷やし、粒子がパラフィンに部分的に埋まった(マスクされた)状態でパラフィンを固化した。このときマスク面の広さがDDAB濃度に依存することを確認した。またこの手法は系全体の体積が1L程度でも適用でき、大量の粒子処理ができることを確認した。次に粒子の露出面を蛍光標識されたシランで修飾した後に蛍光顕微鏡観察を行い、マスク面と露出面とのヤヌス的な構造が形成されたことを確認し、それぞれの形態を評価した。このように両親媒性粉体粒子の多量作成手法を確立できた。 なおPE化において、多数相である水よりもパラフィンは軽く、粒子は重い。よって単に容器の下部や上部を撹拌するだけでは均一にPE化できず、上部と下部の両方に撹拌子を設けることで効率の良いPE化を実現した。このような問題は従来報告されていたヤヌスコロイド粒子の作成では生じておらず、粒子が大きい粉体ならではの問題であった。また適切な界面活性剤濃度もコロイド粒子の場合とは大きく異なったが、この濃度が粒子表面積と界面活性剤分子数の比で決まっていることも解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要にも書いたように、両親媒性粉体粒子の多量作成手法を確立できた。しかし粉体とコロイド粒子のサイズの違いにより、コロイド粒子における作成手法をそのまま適用できず、撹拌手法や界面活性剤濃度に関し工夫が必要となり問題の解決に時間を要した。その結果、当初想定していた構造形成の実験に関しては液体の浸透過程の検証といった予備的なものに留まり、前年度に生じていた遅れを取り戻すには到らなかった。 他方、コロイド粒子系とは異なる粉体系ならではのヤヌス粒子作成手法を構築したこと、蛍光顕微鏡の導入により、粒子表面の異方的構造を直接観察で評価できたことなど、当初の想定外の成果を挙げることもできた。
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Strategy for Future Research Activity |
両親媒性粉体粒子の構造形成:ウェットな粉体が形成する構造の解明に取り組む。作成した粉体粒子と少量の水を混合し、鉛直方向に加振することにより、多体的な粒子衝突によるランダム性の強いアジテートをかけて自己組織化させる。形成された構造については、粒子や液体を蛍光標識して蛍光顕微鏡観察も行い、粒子の親水/疎水面比や水の量に対する形成される構造の相図(状態図)を作成する。 ウェットな粉体の物性測定:構造形成後のウェットな粉体の物性は、親水面間の結合の量や結合構造のトポロジーなどにより大きく変化すると予想される。そこで形成された構造に対し、引っ張り試験機により応力-ひずみ曲線を測定し、降伏・破断応力などの力学物性の構造依存性を解明する。このとき、上と同様の顕微鏡観察も行い、変形と粒子・液体の自己組織化構造の関係も調べる。 粉体-液体複合系の構造形成:顕微鏡観察しながらずり流動場を印加し、応力測定をできるレオ顕微鏡を導入済みである。そこで粉体と同程度の体積の水や油との混合系に対し、ずり流動場下における構造形成について構造観察・物性測定の両面から調べる。特に両親媒性粉体による特徴的な構造(リオトロピック液晶のような秩序構造)の形成に注目し、親水/疎水面比や粒子・液体の体積比、液体の界面張力や粘性率といった条件と形成される構造の関係を解明する。
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Causes of Carryover |
理由:両親媒性粉体粒子の作成手法の確立に当初の想定よりも時間を要したため、構造形成や物性測定の実験に本格的に取り組むことが出来なかった。そのため、それらの研究で用いる実験装置や消耗品の作製・購入費が未使用となった。また、当初は学会発表等に関する旅費等も計上していたが、発表までは到らなかった。(関連学会はCOVID-19の影響でオンライン開催となったため、何れにせよ旅費使用の機会はなかった。) 使用計画:加振による構造形成実験用のセル、引っ張り張力測定用の容器の作成・発注および必要な消耗品の購入を行う。また、これらの実験に用いる試料を作成するための粉体粒子、及びその両親媒性化のための表面処理試薬や器具も購入する。
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