2021 Fiscal Year Research-status Report
原始環境に存在したと推定されるアミノ酸のみで発現可能なタンパク質機能の探索
Project/Area Number |
19K21903
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
赤沼 哲史 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (10321720)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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Keywords | 生命の起源 / タンパク質の起源 / RNA結合 / ATP結合 / 鉄硫黄クラスター |
Outline of Annual Research Achievements |
原始タンパク質が担った推定される機能が、少数アミノ酸種から発現可能か検討することを本研究課題の目的としている。細胞の「エネルギーの通貨」とも呼ばれるATPは、地球生物に共通する細胞内のエネルギーの保存や利用に用いられる生体分子であると同時に、RNAワールドの主要な中心的な分子であるRNAの前駆体の一つでもある。前年度までに、祖先型ヌクレオシド二リン酸キナーゼであるArc1を、原始環境に存在したと推定されるアミノ酸を中心とした12種類のアミノ酸種から再構成した改変体がATPと結合することを明らかにしたが、今年度には、異なる組み合わせの12種類のアミノ酸種から再構成した改変体が、ADPを基質としてATPを合成する反応を触媒することを明らかにした。この改変体を構成する12種類のアミノ酸は、プレバイオティックアミノ酸としてしばしば参照されるアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、セリン、トレオニン、バリンの10アミノ酸種に塩基性のアミノ酸であるリジンとアルギニンを加えた12アミノ酸種である。この改変体のアルギニンをすべてリジンに置換した、すなわち、11アミノ酸種で再構成した改変体もADPを基質としてATPを合成する反応を触媒した。したがって、プレバイオティックアミノ酸に塩基性アミノ酸を加えることで、ATP合成を触媒できるタンパク質がつくられることを示した。 鉄と硫黄は生命の起源に深く関わったと考えられているので、内部に鉄-硫黄クラスターを持つフェレドキシンは、原始的なタンパク質の一つである可能性が高い。本研究では、現存の真正細菌および古細菌のフェレドキシンの分子系統解析と祖先アミノ酸配列推定により、主にプレバイオティックアミノ酸からなる29残基のペプチドの重複による原始フェレドキシンの誕生モデルを提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度前半期は比較的順調に研究が進捗したが、後半期には世界的な新型コロナウイルス感染症拡大の影響によると思われる物流の停滞により、本研究の実施に必須であった物品の納品に大幅な遅れが生じるなどしたため、研究活動も大幅な制約を受けた。特に、アミノ酸種類数を減らした祖先型ヌクレオシドニリン酸キナーゼ改変体を合成するために用いる物品の納品に大幅な遅れが生じたため、もともとの研究スケジュールに対して遅れが生じた。 当初の予定では、1)ATP結合タンパク質の構成に必要な最少アミノ酸種類(数)を明らかにすること、2)原始フェレドキシンの誕生モデルを確立し、原始フェレドキシンを構成したアミノ酸種類(数)を明らかにすることを計画していた。このうちの1)ATP結合タンパク質の再構成については、研究の進捗過程において、ATP結合よりもはむしろATP合成に着目するべき研究結果が得られたため、ATP合成酵素の再構成に必要な最初アミノ酸種類(数)を明らかにすることを新たな目標として取り組んだ。現在までにプレバイオティックアミノ酸と参照される10アミノ酸種類に塩基性アミノ酸を加えることで、ATP合成を触媒できるタンパク質がつくられることを示した。しかし、ATP合成を触媒できるタンパク質の必要な最少アミノ酸種類(数)を明らかにするまでには至っていない。2)原始フェレドキシンの誕生モデルについては、当初の研究期間内の到達目標をほぼ達成し、主にプレバイオティックアミノ酸からなる29残基のペプチドの重複による原始フェレドキシンの誕生モデルを提案した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、プレバイオティックアミノ酸と参照される10アミノ酸種類に塩基性アミノ酸であるリジンを加えることで、AMPからATPを合成する反応を触媒できるタンパク質がつくられることを示したので、今後は、さらに網羅的かつ系統的にアミノ酸種類を減らすことによって、ATP合成を触媒できるタンパク質の構成に必要な最少アミノ酸種類と種類数を明らかにしていく方針である。また、本研究で用いているヌクレオシドニリン酸キナーゼは、本来はヌクレオシド三リン酸のγリン酸基をヌクレオシドニリン酸に転移する反応を触媒するが、現時点で得られている12アミノ酸種類、あるいは、11アミノ酸種類で再構成した改変体は、ADPのβリン酸基を別のADP分子に転移することでATPとAMPを生成する反応を触媒している。そこで、なぜ改変体では基質特異性が変化したのかについても、構造生物学的見地から考察することを計画している。また、現在のところ、プレバイオティックアミノ酸だけではなく、塩基性アミノ酸も最低1種類含めないとATP合成を触媒できるタンパク質を構成できていない。しかし、現存生物がタンパク質合成に用いている塩基性アミノ酸であるリジンとアルギニンは、どちらもプレバイオティックアミノ酸のリストには含まれていない。そこで、隕石中から見出されている塩基性側鎖を持つαアミノ酸であるオルニチン、あるいは、2,4-ジアミノ酪酸を代わりに用いたタンパク質合成の可能性についても検討を始める方針である。
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Causes of Carryover |
2021年度前期は、ある程度は当初の計画通りに研究が進捗したが、後半期には世界的な新型コロナウイルス感染症拡大の影響によると思われる物流の停滞により、本研究の実施に必須であった消耗品の納品に大幅な遅れが生じるなどしたため、研究活動も大幅な制約を受けた。特に、アミノ酸種類数を減らした祖先型ヌクレオシドニリン酸キナーゼ改変体を合成するためのステップである組み換え大腸菌を大量培養するために用いる物品の納品に大幅な遅れが生じたため、当初のスケジュール通りには研究計画を遂行できなかった。次年度使用額は、本研究計画の完遂のために必要な実験を実施するための用品費・消耗品費として使用する。さらに、研究成果を学会や誌上発表するための費用に使うことも計画している。
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