2019 Fiscal Year Research-status Report
必須ミネラルの次世代型同位体による栄養段階の新指標
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19K21908
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
吉村 寿紘 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生物地球化学プログラム), 研究員 (90710070)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日下 宗一郎 東海大学, 海洋学部, 特任講師 (70721330)
石川 尚人 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生物地球化学プログラム), 研究員 (80609389)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 必須ミネラル / 同位体 / 栄養段階 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物の主要必須常量元素のうち、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩素などの必須ミネラルと呼ばれる元素は細胞の浸透圧、膜電位の調節・維持・決定をはじめ多様な生化学プロセスを駆動する。近年、金属の安定同位体比がその摂取と代謝の履歴を反映することが報告され、生態情報の新規ツールとして期待されている。本研究は生態系における金属動態の解明と、化石・考古生態へ応用可能な新しい食物網解析ツールの確立に向けて、海棲魚類の器官ならびに食物連鎖に伴うマグネシウム安定同位体比の変化を検討した。サバ、クロソイの軟組織はそれぞれ海水に対して平均で0.4‰、0.1‰低い値を示し、硬組織はさらに0.4‰程度低い値をもつ。また飼料と養殖マグロの軟組織の間に-0.4‰の差が認められ、食物連鎖を通じて分別が進むことが示唆される。 また考古・化石試料への応用のために金属と主要な軽元素の化学形態と微小領域分布を検討した。縄文晩期の貝塚から出土した縄文人の歯試料5点を対象に、金属を含む主要軽元素(ナトリウム、マグネシウム、リン、硫黄、塩素)の微小領域分布および化学形態を測定した結果、エナメル質は象牙質と比較してマグネシウムや塩素に富み、硫黄濃度は低いことがわかった。リンに対する各元素のシグナル強度比とエナメル質の炭素同位体比、ストロンチウム同位体比、コラーゲンの炭素窒素同位体比を比較したところ、エナメル質の炭素同位体比と平均Mg/PおよびS/P信号強度比に負の相関(R = -0.91, -0.90)が認められた。マグネシウムはエナメル質と象牙質ともに化学形態の差異は認められなかった。塩素の化学形態は塩素フッ素燐灰石と類似し、硫黄はS(+6)とS(-2)の異なる酸化状態が混在していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
分析手法の確立においては脱脂処理を取り入れる手法を考案し、生体試料で高い再現性を達成できた。生体物質における同位体研究の成果として2篇の共著論文を誌上発表した。生体試料は海洋における魚類を中心に測定を進め、飼育試料を用いた採餌に伴う同位体指標の変化と、生体の器官毎の差異を検討することができ良い成果が得られた。また化石試料の分析においても放射光で古代人の歯の軟X線分析を行い、化学形態と微小領域分析から最も信頼のおける測定組織を特定することができた。順調な進捗状況であり、さらに想定した以上に良い成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
R1年度に手法を確立することができ、飼育試料を用いて栄養段階に伴う同位体分別も観測することができた。今後は天然試料で多様な種の分析に応用することで、制御因子をより詳細に解明し金属の動態解析を目指す。栄養段階に伴うマグネシウム同位体比変動、ならびに化石試料における金属元素の化学形態と微小領域分布の結果をそれぞれ英文国際誌に出版することを年度内の達成目標とする。また陸域で得られた試料の分析を継続し、陸と海の差異を検証する。全試料を対象に複数の同位体トレーサーから生体と生態系の中で起こる金属動態を総合的に議論することで「海洋生態系内の必須金属が溶存態ではなく主に含金属有機物として伝搬している」とする仮説を検証する。いくつかの同位体分析に関しては海外での共同研究を予定していたが今年度は渡航が困難であることが予想されるため、国内で測定可能な試料の測定数を拡充するなどの変更を検討している。
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Causes of Carryover |
想定よりも効率的に実験を行うことができたため、測定に必要な消耗品類(カラム、高純度試薬)が最小限であったこと、また試料を研究協力者からの提供でまかなえたため旅費が削減できたことから次年度使用額が生じた。他方、同位体分析に使用している装置の修繕が必要であるため、追加で必要な物品に支出予定である。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Magnesium isotope fractionation during synthesis of chlorophyll a and bacteriochlorophyll a of benthic phototrophs in hypersaline environments2019
Author(s)
Isaji, Y., Yoshimura, T., Araoka, D., Kuroda, J., Ogawa, N.O., Kawahata, H. and Ohkouchi, N.
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Journal Title
ACS Earth and Space Chemistry
Volume: 3
Pages: 1073-1079
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Magnesium isotopic composition of tests of large benthic foraminifers: implications for biomineralization2019
Author(s)
Maeda, A., Yoshimura, T., Araoka, D., Suzuki, A., Tamenori, Y., Fujita, K., Toyofuku, T., Ohkouchi, N. and Kawahata, H.
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Journal Title
Geochemistry Geophysics Geosystems
Volume: 20
Pages: 4046-4058
DOI
Peer Reviewed
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