2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K21928
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塩見 淳一郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (40451786)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
工藤 正樹 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 准教授 (60634524)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | セルロースナノファイバー / フィラメント / 紡糸 / フォノンエンジニアリング |
Outline of Annual Research Achievements |
セルロースナノファイバー材料のさらなる高付加価値化を狙って、集合構造の制御を通じて高い熱伝導率を有するフィラメントの開発を進めた。フィラメントの構造制御には、流動を用いた手法を用いた。セルロースナノファイバー分散液を縮流チャネルに流すことで、Flow focusing効果によって高配向のセルロースナノファイバー集合体を作製した。チャネルの幾何学や動力をパラメータとして、セルロースナノファイバーの配向度、密度、引張応力を調整した。化学的には、セルロースナノファイバーの溶液や混入する酸(イオン)の濃度を通じて、ゲル化や乾燥の速度を制御した。得られたセルロースナノファイバーの熱伝導率を、T型マイクロ定常法を用いて計測した。電極間に架橋して通電加熱したプラチナ細線にT型になるようにセルロースナノファイバーを設置し、定常状態におけるプラチナ細線の温度の変化より、ファイバーの熱伝導率を得た。その結果、塩酸を用いて作製したフィラメントの熱伝導率が10W/mK程度となった。また細いフィラメントほど高い熱伝導率が得られる傾向を見出した。一方、微視的な視点からセルロースナノファイバー材料の熱伝導のメカニズムを検証するため、分子動力学シミュレーションも行った。例えば、低次元構造特有の「異常熱輸送現象」(熱伝導率が長さに対して発散する現象)の有無を検証した。加えて、セルロース鎖同士の界面の熱抵抗の水素結合やイオン結合の影響を評価した。また、フローフォーカス法を用いたフィラメントの連続製造を実現するために、装置の設計,部品の購入,一部組み立てまでを実施した。フィラメント成形途中のフィラメント状ゲルに対して、巻取りドラムの回転と軸方向の移動を可変速とした。予備実験でフィラメント状ゲルの引張強度がその直径やゲル化剤で変化することがわかっており、これによって、引張強度の異なるゲルを巻き取ることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
セルロースナノファイバーをもとにした高熱伝導フィラメントの作製、物性評価、メカニズム解析が順調に進んでおり、連続製造などのさらなる高性能化に向けた準備も進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
高熱伝導のセルロースナノファイバーを実現することを目的として、今年度に引き続き、T型に試料を設置するマイクロ定常法を用いてセルロースナノファイバーのフィラメントの熱伝導を計測する。この際、再現性の良いデータを取得することに今年度以上に注力する。今年度に行ったセルロースナノファイバーのフィラメントの熱伝導率のデータはばらつきが大きかったが、次年度は実験サンプル数をさらに増やし、乾燥過程の環境および計測系の温度や圧力などの環境をより精密に制御することで、得られる熱伝導率の制度を向上させる。その上で、高熱伝導率が得られるメカニズムを微視的な視点から調査する。そのために、これまで行ってきた分子シミュレーションによる数値解析に加えて、電子顕微鏡を用いてフィラメントの構造を解析し、赤外分光光度計などを用いて化学結合の視点から調査する。加えて、最終的には基板や布などのバルク材に仕立て上げることを念頭に、フィラメントを連続的に作製して巻き取る紡糸技術として開発を進める。今年度準備をはじめたフローフォーカス法を用いたフィラメント連続製造装置を完成させ、セルロースナノファイバー糸の試作を行う。この際、フィラメント状ゲルに付加する張力と熱伝導率の関係を検証するために、張力を制御する機構を装置に導入する。さらに、温度を制御できる乾燥炉も導入し、乾燥履歴とフィラメントの熱伝導率の関係も検証できるようにする。これらを通じて、上記の再現性を担保するためだけでなく、張力および乾燥・温度を制御変数として高熱伝導フィラメントが得られる条件を同定する。以上で得られる知見や要素技術をもとに、材料合成、数値解析/機械学習、物性評価技術を三位一体で練成したフォノンエンジニアリングを実践し、フォノン輸送の観点から微視的に熱伝導を考えながら、階層的な材料開発研究を行う。
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Causes of Carryover |
セルロースナノファイバーのフィラメントの紡糸装置は今年度末から次年度のはじめにかけて作製しており、一部の部品に関しては試運転をした後の次年度に購入した方がより効果的であるため。
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