2019 Fiscal Year Research-status Report
一分子熱伝導率測定によるDNAの熱伝導性の解明とフォノン熱輸送制御
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19K21929
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
児玉 高志 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (10548522)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
志賀 拓麿 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (10730088)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | ナノスケール伝熱 / 生体材料 / DNA / タンパク質 / ナノ/マイクロ加工 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究では、サスペンドマイクロデバイスを用いた一分子熱伝導測定技術を利用して、柔軟な周期性の制御と単位格子の定義が可能な生体材料であるDNAの単一分子熱伝導率の定量を目標として研究を遂行している。1年目は当初の計画通り、二端子熱伝導計測が可能なサスペンドマイクロデバイスを微細加工工程によって準備して、試料分散水溶液を滴下してデバイスの製作を試みた。しかしながら、最初に試作したマイクロデバイスの場合、溶媒が蒸発する過程で生じるラプラス圧などの毛管現象によってサスペンド構造に強い力学的負荷が加わり、ほとんどのデバイスが破壊されてしまうという問題が生じた。また、生体材料の熱伝導度の低さから測定感度に課題があり、試料の橋渡しに成功した場合でも固体伝熱の2倍以上の熱伝導度を示す輻射伝熱の寄与により、高精度で単一分子鎖の熱伝導率の定量を行うことは極めて困難であることがわかった。 そのため、前者の課題に対しては、支持脚の長さや位置、支持脚同士の幅など、水溶液の蒸発過程でもデバイスが破壊されないようにサスペンド構造全体のデザインを変更することで成功確率を向上させ、生体試料の測定デバイスへの転写を可能にした。また、後者に関しては、測定感度を支配している検出膜の電気抵抗の検出精度を向上させるため、ホイートストンブリッジ回路を組み合わせた測定系を新たに構築し、100 pW/K以下の熱伝導度の検出を可能にした。ここまでの研究成果は、本年度の3月の応用物理学会で学会発表されている他、次年度6月に開催予定の伝熱シンポジウムで単一分子の高感度熱伝導測定に関する学会発表を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本助成金を利用して1年目に研究室に導入されたワイヤボンディング装置により、マイクロデバイスのナノスケール熱伝導測定の実験効率が飛躍的に向上し、低温から常温近辺まで電気的手法による熱伝導測定を効率よく行うための研究環境の構築が当初の計画どおり完了したが、水溶液を蒸発させる過程で生じる力学的負荷が想定以上に大きく、測定可能なデバイスデザインの変更が必要となった点や測定感度を高めるために電気ノイズの軽減やホイートストンブリッジ回路の構築など、測定手法や測定システム全体の再構築が必要となった点など、研究計画を一部修正しなければいけない箇所が見られた。しかしながら、これらの問題点は1年目で克服することができ、2年目開始時点で実際にDNAをはじめとする生体試料の測定に着手することが可能となったため、想定外の遅れは生じたもののおおむね順調に進んでいると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目に行った実験の結果、試料を橋渡しさせる2つの測定系の間のギャップ幅は、試料転写時におけるデバイス破壊の問題から、1 マイクロメートル以下にすることが困難であるという知見が得られている。そのため、当初計画していた配列制御が施されたDNAオリゴマーの場合、試料長さが短く、最初に挑戦する測定試料としては不適切であると考えられる。そこで2年目は1年目に確立させた実験試料の転写プロセスと超高感度熱伝導測定手法を実際に活用して実証実験に着手する計画であるが、実験試料として、λファージDNAなどDNAを用いた基礎実験で良く使われている分子鎖の長い試料を用いて実験を行う他、セルロースナノファイバやアクチンフィラメントなどの細胞骨格繊維など、熱伝導率の定量が報告されておらず、入手が可能なDNA以外の様々な生体材料にも本測定技術を適用して、生体材料全般の実験データを増やしていく計画である。実験手順は、1年目と同様に窒化シリコン膜上に電子線描画によるパターンニング、スパッタによるCr/Pt膜の成膜、リフトオフによる余剰金属の除去で電気配線を製作し、続いて電子線描画でサスペンド構造を定義して反応性イオンエッチングにより、レジストを保護膜として窒化シリコン膜を除去し、二フッ化キセノンガスエッチング装置と酸素プラズマ装置を用いて露出した基板シリコンとレジストを除去して測定デバイスを完成させる。そして同測定デバイスに試料を転写して熱伝導評価を行う予定である。伝導率を導出するために必要な試料の構造情報に関しては、測定後に走査型電子顕微鏡や原子間力顕微鏡で試料を直接観察する方法を検討している。そして、得られたデータを研究分担者と共同で分子シミュレーションにより解析を行う計画である。
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Research Products
(10 results)