2020 Fiscal Year Research-status Report
一分子熱伝導率測定によるDNAの熱伝導性の解明とフォノン熱輸送制御
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19K21929
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
児玉 高志 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (10548522)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
志賀 拓麿 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (10730088)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | ナノスケール伝熱 / ナノ/マイクロ加工 / DNA / タンパク質 / 生体高分子 / セルロースナノファイバー |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究では、サスペンドマイクロデバイスを用いた一分子熱伝導測定技術を利用して、DNAをはじめとする柔軟な周期性の制御と単位格子の定義が可能な生体材料をターゲットとして、単一分子レベルで熱伝導率を定量することを目標として研究を遂行している。2年目は、1年目に構築したブリッジ法を基礎とした超高感度熱伝導測定システムを利用して、実際に試料の測定に着手した。試料長さが2~5μmと適切であるためデバイスの準備が比較的容易であること、フレキシブル熱拡散材料や断熱材への応用が期待されているなど工学的に注目を集めている生体高分子であること、などの研究背景により、本研究では新たにセルロースナノファイバー1分子をターゲット材料として熱伝導測定を行った。測定デバイスは、ラプラス圧などによるサスペンド構造の損傷を抑えるために支持脚の長さや支持脚間の幅を調整し、試料が分散した水溶液中にデバイスを浸して引き上げる方法でデバイスへ導入した。実験の結果、水溶液中への浸水によって破壊されてしまうデバイスもいくつか観察されたが、試料が橋渡しされた状態で測定可能なデバイスを確認することができたため、熱伝導率の測定を行った。測定の結果、直径約6 nm、長さ約2μmのセルロースナノファイバー1本当たり約50 pW/K程度の熱伝導度を定量することに世界に初めて成功し、輻射伝熱の影響などを差し引くことでセルロースナノファイバー1本当たり常温で約2.2±1.1 W/m/Kの熱伝導率を示すことを明らかにした。実験の結果、水溶液に分散させた試料をサスペンド測定系へ導入する場合、測定デバイスの上面よりも下面に張り付く形で橋渡しされる場合が多いことが新たに明らかになり、試料導入後に実験試料の太さを原子間力顕微鏡による測定で定量することが困難であるという新たな技術的課題に直面した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年目終了時点で生体材料であるセルロースナノファイバーの単一分子熱伝導測定に世界で初めて成功し、約50 pW/K程度の単一分子熱伝導を高精度で検出することができた点は素晴らしい進捗であると考えられる。しかしながら、実験試料の太さの定量方法など新たな技術的課題に直面した点や測定に適した長さのDNA試料の準備の目途が立たず、セルロース分子以外の試料に対して本測定を適用することが2年目終了時点できていない点を考慮し、進捗状況に関してやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目は、2年目までに本研究室で確立された超高感度熱伝導率測定法と実験試料の転写方法を利用して、DNA一分子を最終目標として、新たな生体材料の測定に着手する計画である。サスペンド測定系に橋渡しされた試料直径を原子間力顕微鏡で評価することが困難であるという新たな課題を解決するために、新たな戦略として、測定デバイスに橋渡しされた試料を熱伝導測定終了後に透過型電子顕微鏡で直接観察できるようにするために、これまでのデバイス製作プロセスを修正して新たな製作プロセスを確立する計画である。具体的には、厚み200 μmの両鏡面シリコン基板に対して、上部にLPCVD窒化シリコン膜、背面に厚み2.5μm程度の熱酸化膜をそれぞれ成膜した後、上面にデバイスの金属構造、背面にデバイスのサスペンド構造となる部位や最終ステップでデバイスを切り出すために必要な領域の熱酸化膜を部分的に除去した基板を準備して開始材料として利用する。そして上面窒化シリコン膜の除去によるデバイス構造のパターンニング、および背面から熱酸化膜を保護膜とした深堀りRIEプロセスによる露出シリコンの除去を行い、直径約3mmの円形構造内にサスペンド測定系を有したデバイスを並列加工によって量産し、実験に利用する計画である。試料は、2年目までと同様に分散水溶液からの転写によって測定デバイスに導入し、測定終了後にはデバイスを切り出して透過型顕微鏡による観察に挑戦する。2年目までの実験の結果、100 pW/K以下の熱伝導を計測可能であることがわかっていることから、実験試料として、DNAの他に筋原線維やクモの糸内部のモチーフ構造体などタンパク質分子の熱伝導測定にも挑戦し、得られた結果に関しては、これまでと同様に分子シミュレーションを利用して解析して学理構築を行う計画である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響による大学の閉鎖や遠隔地の共用施設の使用が一時的に出来なくなるど、研究の円滑な遂行に支障が生じたことにより、研究計画の修正、および研究期間を延長することになった。次年度は、既に確立済みの超高感度熱伝導計測法を利用して生体材料の熱伝導測定を実行するために必要な実験試料や配線など、測定に必要な消耗品に繰越金を充てる計画である。
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Research Products
(10 results)