2019 Fiscal Year Research-status Report
液体表面上での電解質ナノ薄膜創製手法の確立と電池デバイス応用開拓
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19K21933
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
津島 将司 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30323794)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 崇弘 大阪大学, 工学研究科, 助教 (90711630)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 電解質膜 / 熱物質輸送 / ナノマイクロ熱工学 / 固体高分子形燃料電池 / レドックスフロー電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,電解質膜の作製を液体表面上で行うことを提案し,従来よりも2桁低い膜厚100 nmオーダーの電解質ナノ薄膜の創製を行う.その上で,固体高分子形燃料電池,レドックスフロー電池,などの電気化学エネルギー変換デバイスにおけるin-situ(その場)実装に挑戦する.従来のデバイス構築手法の前提を取り払うことで,電池デバイス性能の格段の向上に挑み,電解質膜の極薄化を実現することにより,電解質膜の研究開発に概念転換を起こすことを目的とする.具体的な研究課題として,① アイオノマー含有溶液と基材面となる液体の相互作用(濡れと拡がり)の基礎的解明,② アイオノマー含有溶液の液面上での蒸発と析出(成膜)過程における熱物質輸送現象の基礎的解明,③ 電解質ナノ薄膜の電気化学エネルギー変換デバイス電極上へのin-situ(その場)実装とデバイス性能向上の実証,を設定し,アイオノマー含有溶液と基材面となる液体の相互の表面エネルギー(相互濡れ),熱物質輸送(対流,拡散,蒸発),固相析出(成膜)について,先端計測と計算科学を援用したアプローチにより基礎的に明らかにし,デバイス応用開拓に繋げる.本年度は,固体高分子形燃料電池やレドックスフロー電池などに用いられる高分子アイオノマーを含有した溶液と基材面となる液体との濡れ広がりの挙動を調べ,塗工液体ならびに液体面物質の探索と選定を行った.その上で,温度制御下において成膜を行う実験系を構築し,アイオノマー含有溶液の液面上での蒸発速度が析出(成膜)過程に及ぼす影響について,アイオノマー濃度の違いも考慮した検討を行った.その結果,液体表面上で厚さ約5μmの電解質薄膜の作製に成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電解質膜の作製を液体表面上で実現するために,研究開始初年度において,電解質となる高分子アイオノマー含有溶液,基材面となる液体,そして,蒸発および成膜を温度制御下で実施するための実験系の構築を行った.具体的には,電解質膜の材料としては,固体高分子形燃料電池やレドックスフロー電池などで実際に用いられる高分子電解質であるパーフルオロスルホン酸アイオノマーを含有した溶液を用い,基材面となる液体については,水系から有機系まで広く検討を行い,塗工液体の濡れ広がりについての評価を実施した.その上で,塗工液体の蒸発に伴う高分子の析出過程について,周囲環境の影響について調べ,析出過程における薄膜の破断を抑制する温度条件ならびにアイオノマー濃度についての知見を獲得した.形成された薄膜の採取方法についての検討も行い,電気化学インピーダンスを用いたイオン伝導度の測定を行うことが可能な薄膜試料が作製できている.作製された電解質膜については,精密電子天秤を用いた重量測定を実施することで重量法による電解質膜厚の測定を実施し,加えて,電子顕微鏡観察を実施することで膜厚の直接評価を行った.これまでに膜厚約5μmの電解質膜を得ることができている.加えて,非混和性2液体と周囲環境(空気)を考慮した塗工液体の濡れ広がりについての2次元数値解析手法を構築し,表面エネルギーの違いによる液膜および液体レンズの形成が再現できており,計算科学を援用した成膜過程の基礎的な理解とともに成膜条件の最適化のための基盤が整備できた.
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Strategy for Future Research Activity |
研究開発2年目においては,1年目に開発した液体表面上での電解質薄膜の創製手法を基盤として,さらなる薄膜化に向けた検討を行う.その際,電解質アイオノマー含有溶液におけるアイオノマー濃度と溶液の蒸発速度に着目した検討を行う.塗工液体の蒸発過程については,基材となる液体内部の対流の影響を受け,それにともなって膜厚の不均一や塗工液体の破談や収縮なども生じることが予想されるため,成膜過程における表面温度変化について,赤外線サーモグラフィーを用いた時系列観察を実施する.これにより,さらなる薄膜化を達成する環境条件について,成膜の安定性の観点から考察を加える.加えて,塗工液体および基材となる液体の表面エネルギーの制御についての検討を行うことで薄膜化の研究を推し進める.具体的には,界面活性剤の導入について,塗工液体の濡れ広がり,ならびに成膜過程に及ぼす影響について実験的に明らかにする.これにより,高希釈な塗工液体を用いて安定した蒸発と成膜を実現する条件を探索し,薄膜化につなげる.得られた電解質薄膜については,機能発現に着目した研究開発も推進する.特にイオン伝導度に着目し,電気化学セルを用いた電気化学インピーダンスの測定を行い,既存の高分子電解質膜との相違についての検討を行う.その際には,高分子構造について,原子間力顕微鏡を用いた電解質膜内の親水性クラスターのナノ構造解析を行い,高分子構造とイオン伝導度の相関についても考察を行う.その上で,作製した電解質薄膜の電池デバイスへの応用として,固体高分子形燃料電池やレドックスフロー電池への適用について検討を行う.
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Causes of Carryover |
研究開発初年度に,電解質となる高分子アイオノマー含有溶液,基材面となる液体,そして,蒸発および成膜を温度制御下で実施するための実験系の構築を行い,実験条件を広く検討することで,液体表面上で厚さ約5μmの電解質薄膜の作製に成功した.その過程において,基材となる液体内部の対流の影響を受け,それにともなう膜厚の不均一化や塗工液体の破談および収縮を示唆する結果が得られた.これを受けて,研究開発2年目においては,さらなる薄膜化に向けて塗工液体の蒸発過程の能動制御を行い,温度制御手法を改良するために初年度の配分額を2年目に繰越して合算することが本研究課題で目的としているナノ薄膜の創製に必要であると考え,次年度の予算を執行する計画である.
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