2020 Fiscal Year Research-status Report
固液界面近傍の水分子及びイオンの状態に基づく氷の不均質核生成の理解
Project/Area Number |
19K21938
|
Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
稲田 孝明 東京電機大学, 工学部, 教授 (60356491)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
Keywords | 核生成 / 過冷却 / 氷 / 界面 / イオン |
Outline of Annual Research Achievements |
氷点下で動作する熱機器において、固体表面上で氷が発生する現象(不均質核生成)を制御することは重要な課題である。本研究では、固体表面近傍の水分子の状態に基づいて、氷の不均質核生成の理解を深めることを目的とする。具体的には、氷の発生を促進する固体表面の結晶構造や電気的特性を明らかにし、その固体表面上での氷の不均質核生成現象を測定・解析し、固体表面の特性と氷発生の相関を調べることによって、氷の不均質核生成の新しいメカニズムを提唱する。今年度は、氷核活性の高いヨウ化銀(AgI)の単結晶基板の作成を試み、電子顕微鏡観察で評価した。また、AgI基板上での水滴の不均質核生成温度を測定した。 AgI粒子及び基板の作成手法としては、AgI飽和溶液中のIイオン濃度を調整しておき、これを徐々に水で希釈することによってAgIを過飽和状態として、AgI単結晶を作成する技術を確立した。AgI結晶を数日間かけてゆっくり成長させると、明瞭なファセットを有する単結晶を作成でき、モルフォロジーの異なる結晶の回収も可能となった。この手法によって、ベーサル面からなるAgI単結晶基板の生成を実現した。基板表面の電子顕微鏡観察から、渦巻き成長を示す成長丘やステップが観察され、表面モルフォロジーが明らかな基板上での氷の核生成を調べる準備が整った。 このAgI単結晶基板上に微小水滴(直径10~100ミクロン)を配置し、予備的に氷の核生成温度を測定した結果、単結晶基板表面の位置に依存せず、ほぼ一様な核生成温度が得られることがわかった。その一方で、基板ごとに核生成温度がばらつくことも確認できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、氷核活性の高いAgIの単結晶粒子の作成とそのモルフォロジーの評価、さらにはAgI粒子の電気的特性や氷核活性特性の測定を計画していた。しかし、AgI単結晶の作成方法を工夫することにより、ベーサル面からなる数mmサイズの単結晶基板を作成する技術を確立できたため、計画の微修正を行うことにした。表面モルフォロジーが明確なAgI単結晶基板を用いて、その氷核活性を測定することが可能になれば、複数の結晶面で構成されるAgI微粒子の氷核活性を調べるよりも、不均質核生成のメカニズム考察に有利となる。そのため、AgI結晶表面の電気的特性評価を遅らせて、単結晶基板の表面モルフォロジー観察を優先的に行った。その結果、電子顕微鏡観察によって表面モルフォロジーを明確に特定できるようになり、最終目標に向けての足掛かりを築くことができた。 一方、当初の計画通りにAgI単結晶粒子の準備も進めており、モルフォロジーが定まった結晶粒子の回収も可能となりつつある。来年度は、この単結晶粒子の電気的特性と氷核活性特性の測定もあわせて進める予定である。 以上のように、前向きな意味での計画微修正を行いつつ、研究で用いるAgI単結晶の選択肢を増やしながら、目標達成に向けての準備を整えている段階である。今年度はAgI単結晶基板の作成技術を確立できたことが大きな成果であり、おおむね順調に研究が進展していると自己評価している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、当初計画していなかったAgI単結晶基板の作成技術を確立できたことから、単結晶基板の表面モルフォロジー観察を優先的に行った。結果として研究計画の幅が大きく広がり、不均質核生成のメカニズム解明に向けての準備が整ってきた。来年度は、このAgI単結晶基板上で氷の核生成実験を行う。基板上での核生成実験を系統的に効率よく実施するために、いくつかの実験的な技術課題を解決する必要があり、年度前半に対応する予定である。AgI単結晶基板を用いた核生成実験により、基板の表面モルフォロジー特性と氷核活性特性の相関を明らかにするとともに、水に含まれるイオンをパラメータとした実験を進めて、不均質核生成のメカニズム考察を行う。また、モルフォロジーが定まったAgI単結晶粒子を用いる実験も並行して計画しており、単結晶粒子表面の電気的性質と氷核活性を測定することにより、多角的な視点から不均質核生成のメカニズムの理解を深めていく。 AgI単結晶基板を作成できたことにより、多様な核生成実験を行うことが可能となり、不均質核生成のメカニズム考察を効率的に進められると考えている。来年度は実験と理論の両面から不均質核生成についての考察を行い、特に表面モルフォロジー特性と電気的特性の両面から、不均質核生成に対する新たな視点での理論体系構築を目指したい。
|
Causes of Carryover |
今年度は、AgI単結晶基板の評価を優先的に行ったため、所属機関で使用可能な機器や試薬を用いてほとんどの実験を遂行できた。また新型コロナ感染状況の影響もあり、計画していた学会の参加を取りやめた。その結果、支出額を当初の計画よりも746,048円減額することができた。次年度の研究を効率的に推進するため、この金額を次年度の物品費(消耗品費)として使用する計画である。これらの金額を加えた次年度の助成金使用計画は、物品費1,346,048円、旅費200,000円、人件費・謝金600,000円、その他100,000円の予定となる。
|