2019 Fiscal Year Research-status Report
Novel thermionic cooling effect in asymmetric double barrier semiconductor heterostructures
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19K21957
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平川 一彦 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10183097)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 冷却素子 / 熱電子放出 / 共鳴トンネル効果 / 半導体へテロ構造 / 蒸発冷却 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代のエレクトロニクスは、高密度集積、素子の高速動作を達成することにより大きな発展を遂げてきた。しかし、同時に素子の内部で発生する熱が、素子の動作や信頼性に大きな影響を与えはじめており、エレクトロニクスの発展を大きく阻んでいる。従って、素子の高効率な冷却技術は、将来のエレクトロニクスの発展の鍵を握る技術と言っても過言ではない。従来より固体冷却素子として熱電素子が多く用いられてきたが、1)高濃度にドープされた不純物のためにキャリアは頻繁に散乱され、ジュール熱が発生するために、冷却効率が悪い、2)ペルチェ素子に適した材料はBiTeなどの特異な物質であり、通常の半導体プロセス技術との整合性が悪い、などの欠点がある。 このような背景の下、我々は半導体へテロ構造のバンド構造を適切に設計し、熱電子放出と共鳴トンネル効果を同時に制御して実現できる熱電子放出冷却技術に注目し、格段に高効率な固体冷却素子の実現に向けた原理実証を行うことを目標にしている。 特に本年度は、(1)素子構造を流れる電流の精密な温度依存性を測定することにより、非対称二重障壁トンネル構造を流れる電流の成分を分析し、有効に量子井戸中の電子温度を下げる熱電子放出電流成分とそれ以外のリーク電流成分に分けることができることを見出した。(2)共鳴トンネル電流と熱電子放出を伴い流れる電流を解析的に計算する方法を検討し、素子の高効率化に向けた方向性を探索している。(3)量子井戸と障壁を多層化した構造に対して数値計算を行い、さらなる高効率化、冷却パワーの増大の可能性を検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は半導体へテロ構造のバンド構造を適切に設計し、熱電子放出と共鳴トンネル効果を同時に制御して実現できる熱電子放出冷却技術に注目している。我々が検討を行っているのは、非対称二重障壁ヘテロ構造である。この素子においては、バイアスの印加によって、トンネル障壁を介して量子井戸に低エネルギーの電子が共鳴的に注入される。しかし、出口側のエネルギー障壁は厚いため、トンネル効果では脱出することができない。従って、電子が量子井戸を脱出するときには、厚い出口側の障壁を熱的に越えていく過程が起きる。従って、電流が量子井戸を通って流れるに従い、電子が熱的に励起される分だけエネルギーを奪う過程が起こり、量子井戸層が冷却されていくと言うのが素子の動作原理である。 本研究では、実験と理論的考察の両方から研究を進めているが、実験的には結晶成長装置の状態がよくなかったために、大きな進展を得ることが出きなかったが、精密な電流-電圧測定から、素子を流れる電流のうち、効率的に量子井戸を冷却する成分とそれ以外の電流成分を分けることができることに気がつき、現在、実験と解析的な計算の2つの方向から攻めている。この研究は、素子の効率化に有効である。また、大きな冷却効果を得るための多層構造化など新しい素子構造の探索を理論計算により開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、標準的な半導体でトンネル効果と熱電子放出効果を組み合わせた新規な冷却効果で、高効率の冷却効果を得ることを目的としている。本研究では以下の4点を中心に研究を遂行する予定である;1)非対称二重障壁構造に関して、解析的な方法と数値計算の両方を用いて、量子井戸内の電子系の冷却を支配するパラメータを明らかにする、2)素子構造を最適化し、電子温度の冷却を最大化する、特に、エミッタ側の薄い障壁の高さとコレクタ側の厚い障壁の高さが重要である、3)大きな冷却効果を得るための、傾斜障壁構造や多層構造化など新しい素子構造の探索を行う。 以上のような研究計画により、半導体へテロ構造を用いた高効率電子・格子冷却の原理実証を行う。
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Causes of Carryover |
試料を作製する結晶成長装置の不具合で、作製された試料の特性がよくないという問題があった。そのため装置の整備・修理に時間を要した。また実験の担当を予定していた博士研究員が就職のために帰国し、実験が進まないという事情もあった。 2020年度は、繰り越した予算を用いて、本格的に試料作製に取り組み、実験を進める予定である。また、博士研究員1名も2020年夏に来日予定であり、研究を加速して進める。
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Research Products
(7 results)