2019 Fiscal Year Research-status Report
電子軌道制御を利用した新しい超低消費電力磁化スイッチング
Project/Area Number |
19K21960
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大矢 忍 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20401143)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
|
Keywords | 磁化反転 / スピントロニクス / 酸化物 / 分子線エピタキシー |
Outline of Annual Research Achievements |
電子スピン自由度を用いたエレクトロニクスデバイスの実用化において、強磁性体の磁化方向スイッチに必要な電力の低減は極めて大きな課題である。現在のスピントランスファートルク方式等では、10^6~7 A/cm2 程度の大電流が必要である。近年筆者らは、同一物質内において、フェルミレベル(EF)に位置する電子の軌道の種類等が変わることにより、磁化の向きやすい方向(磁気異方性)の対称性自体が大きく変わることを発見した。また、状態密度を量子サイズ効果により離散化し、それらのエネルギーを人工的に設計すれば、磁化スイッチに必要な電圧を自由に設定できる可能性がある。そのためには、電子のコヒーレンスが重要であり、高品質ヘテロ構造が不可欠である。本研究では、EF近傍に複数の異なる軌道を有する高品質な単結晶強磁性ヘテロ界面を実現し、電子濃度変化により起こる磁化スイッチに必要な電圧値を「人工的」に制御し、超低消費電力磁化スイッチの実現を目指す。将来的は磁化スイッチに必要な電力を無限小まで抑えられると期待される。 本年度は、高品質単結晶ペロブスカイト酸化物ヘテロ構造LaSrMnO3/SrTiO3/LaSrMnO3において、実際に15~200mV程度の極低電圧かつ、10^-2A/cm2という現在のスピンデバイスで磁化反転に必要な電流密度の約8桁小さな電流密度で、磁化を膜面内で90度回転させることに成功した[Phys. Rev. Applied. (Letter)(2019)]。LSMOのSTOとの界面においては、フェルミレベル近傍にeg軌道の電子とt2g軌道の電子がエネルギー的に近接して存在しているために、わずかな電圧で電子の軌道が変わって、このような大きな効果がもたらされたと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
基本的に研究計画通りに進んでいるが、本年度の研究で、非常に驚くべき極めて小さな磁化回転電流密度が得られた。このような原理で磁化反転ができるようになれば、極低消費電力のスピントロニクスデバイスが実現できる可能性があり、本成果は極めて重要だと考えている。本成果が掲載されているPhys. Rev. Applied. (Letter)(2019)の内容については、東京大学よりプレスリリースをしており、日経新聞や、EE Times Japanなどにも取り上げられた。本成果により、2020年3月に開催予定であった米国物理学会(APS)や日本物理学会等で招待講演を行う予定であった。このように国際的にも高い評価を受けている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本現象について、ペロブスカイト酸化物を利用してさらに詳細に調べる予定である。昨年度はSrTiO3を障壁層として用いたが、これを他の材料系に変更したときの変化などについて調べる。また、強磁性半導体GaMnAsもこのような磁化制御には適した系である。特にGaMnAs薄膜における量子効果は、磁化反転に利用できる可能性がある。これらの材料を用いた系を用いて、電圧誘起磁化反転現象を調べる予定である。さらに、時間が許す限り、他の金属材料系に関しても調査を進める予定である。
|
Research Products
(8 results)