2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K21969
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
増田 貴史 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 講師 (70643138)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 半導体 / ゲルマニウム / 溶液 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、常温常圧で液体、脱水素化により固体の半導体ゲルマニウム(Ge)へと変化する新物質「液体Ge」の創出である。研究代表者が長年研究してきた「液体Si」の合成方法をベースに、その対象を同じ14族のGeへ展開する。そして塗布型の半導体Ge薄膜を実現する。昨年度は液体Geの合成環境(安全設備)のセットアップと、具体的に3種類の液体Geの候補材料を決定した(環状水素化Ge、鎖状水素化Ge、2次元Ge)。本年度は本格的にそれら化合物の合成に取り組んだ。その取り組みの中でいくつかの課題が顕在化してきたため、3つの新たな取り組みを開始した。1つは密度汎関数法を用いた反応経路の解析と評価、もう1つは新たな合成設備(無声放電装置)の導入と立ち上げ、最後は塗膜中の残留不純物を低減するための焼成設備の導入である。幾つかの検討を進める中で、3つの候補材料内で鎖状水素化Geが本命になりそうだ、との感触を得、その合成の比重を強め始めた。他の2つの候補材料も致命的な課題があるわけではないので、引き続き合成と検討を続けている。具体的な取り組み内容と対策は進捗状況欄に記載をした。現時点では2次元Geの溶液を用いて塗布型Ge薄膜を得ることができている。ただし不純物(残留炭素)がまだ1%程度残っている。どの候補材料でも、最終的には高純度化をどのように達成するかが課題になるだろう。これは液体Siでの実績に基づき解決してゆけると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は液体Geの3つの候補材料を決定し、その合成に取り組んできた。そして前駆体の合成に至っていた。今年度はこの合成ステップを進め、最終生成物の合成に努めた。ただしまだ満足する化合物は得られていない。1つ目の候補材料(環状水素化Ge)は、その前駆体となるフェニル側鎖を持つ化合物を得た。このフェニル基を塩素化、次いで水素化することを試みたが、塩素化が進まずに環構造が壊れてしまった。この原因を検討したところ、どうやらGe-Clの結合エネルギーが、同じ14族のC-ClやSi-Clとは異なり著しく弱いことが原因にありそうだということが判明した。そこで現在は密度汎関数法を用いて結合エネルギーや反応経路を解析しつつ、低温合成のような合成ルートの再探索を進めている。2つ目の候補材料(鎖状水素化Ge)はその合成法の探索を進めてきた。そしてGeH4を無声放電環境下に置くことで重合できることが明らかとなってきた。現在は合成装置のセットアップを進めている。3つ目の候補材料(2次元Ge:polymermyne)は、可溶性を出すために導入した側鎖基(フェニル基)が、炭素不純物として残留してしまう問題が明らかとなっていた。側鎖を水素化すると不溶性となるため、液体材料として使用するにはある程度の炭素側鎖は残さざるを得ない。液体Ge→固体Ge変換時に炭素の取り込みを抑える製膜工程の検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
半導体Geを得るためには、塗膜の高純度化が不可欠である。その視点で液体Geの本命となるのは、鎖状水素化Geになるだろう。特に精製が容易な分子量が比較的小さな化合物を考えている。無声放電装置を導入したため、来年度はその合成に力を入れてゆく。環状水素化Geはフェニル基の塩素化反応をどのように実現するかがポイントになる。これはシミュレーション解析を用いて検討を続ける。一つの可能性として低温環境による合成を検証する。2次元Geは、薄膜の高純度化をどのように達成するかがポイントになるとの感触を得た。材料合成とプロセスの両面から、高純度化の可能性を検証する。焼成方法の工夫により残留不純物濃度が変化することが明らかとなってきた。本年度は液体Geの3つの候補材料の合成に取り組み、難易度、可能性、課題や対策などの具体的な要因を明らかにすることができた。液体Siでの実績に基づき、特に塗膜の高純度化に力を入れてゆく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響により、合成に必要な装置(特にグローブボックス)の修理/改造が全く進まなくなってしまい(部品が輸入できず)、当初の予定通りの作業に入れなかった。臨時のグローブボックスに簡易の安全設備を構築して使用をしたが、安全面で問題があることが判明し、その対策を徹底した。本研究では有毒性の副産物が発生する可能性があるため、安全対策は極めて慎重に行う必要がある。従って最終的にはグローブボックスだけでなく、部屋単位で安全設備を備えた環境を構築した。次年度は安全設備を備えた部屋の賃料が発生することになる。また安全性を考慮し、2人1組で作業に取り組む必要性が出てきた。そのため次年度には実験補助員の人件費が発生することになる。次年度はこの2つが使途の大部分を占めることになる。
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