2019 Fiscal Year Research-status Report
エキシトンが情報を伝達し記憶する革新的古典/量子デバイスの創製
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19K21978
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
板垣 奈穂 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (60579100)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | エキシトン / ZION / トランジスタ / 量子構造 / プラズマエレクトロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,電子-正孔が再結合する過程 (=中間状態)として扱われてきたエキシトンを情報担体として進化させ,その伝導および記憶を利用した革新的古典/量子デバイスの創製を目指すものである.2019年度はまず,オリジナル材料ZIONを用いて,室温・長寿命エキシトンを無機材料で実現し,これにより,エキシトンをキャリアとする新概念トランジスタの室温動作を実現することを目標とした.具体的には,新材料ZIONが有する潜在的な高いエキシトン束縛エネルギーとピエゾ効果を,代表者が考案した逆Stranski-Krastanov (SK) モードを利用した高品質結晶成長技術により発現させ,デバイスの室温動作に欠かせない,高温・長寿命エキシトンの実現を試みた.その結果, ZION/ZnO歪量子井戸を用いたエキシトントランジスタにおいて,ゲートへの光照射によるスイッチングに成功した.さらに,エキシトンデバイスに欠かせない高性能アモルファスIn2O3:Sn (a-ITO)について,プロセスデータセットの取得と,サポートベクトルマシンおよびガウス課程を用いた機械学習を行った.従来,製膜実験から膜質評価まで時間がかかることから,データ収集のコストが非常に大きく,幾多ある実験条件から最適条件を見出すことは極めて困難であったが,本研究での機械学習により,短時間でその条件を見出すことに成功した.具体的にはまず,約170の製膜データセットに対して機械学習を用いて薄膜の結晶構造を分類し,アモルファス/結晶の境界条件,ならびに,低抵抗率,高移動度となる実験条件を予測した.この結果,非固溶系の不純物の微量添加により,従来手法では不可能であった,高移動度且つ完全アモルファス構造を有するa-ITOを得るに至った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,電子-正孔が再結合する過程 (=中間状態)として扱われてきたエキシトンを情報担体として進化させ,その伝導および記憶を利用した革新的古典/量子デバイスを創製することを目指している.現在までに,新材料ZIONが有する潜在的な高いエキシトン束縛エネルギーとピエゾ効果を,代表者が考案した逆Stranski-Krastanov (SK) モードを利用した高品質結晶成長技術により発現させ,ZION/ZnO歪量子井戸を用いたエキシトントランジスタのゲートへの光照射によるスイッチングに成功している.さらに,エキシトンデバイスに欠かせないアモルファスIn2O3:Sn (a-ITO)について,機械学習を駆使することによりその高性能化に成功しており,研究は順調に進展しているといえる. 2020 年度以降は,エキシトントランジスタのゲートへの電圧印加によるスイッチングの実現を目指すとともに,ZION歪量子井戸内のエキシトンについて,量子状態の保存と破壊の機構をRabi振動の観測を通して解明する.これによりエキシトンを情報担体とした二つの革新的古典/量子デバイスの早期の動作実証を目指す.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,代表者オリジナルのシーズ技術を背景に,エキシトンを情報担体とした二つの革新的古典/量子デバイスの動作実証に注力する.そのための具体的手法を以下に記す. 1. 新概念エキシトントランジスタの室温動作実証:エキシトントランジスタは,電気-光信号(E/O)変換の超小型化・高速化を可能にするため,LSI内光配線化のブレークスルーをもたらすと期待されているが,125K以下の低温での動作報告しかなされていない.2019年度に我々は,オリジナル材料ZIONからなる歪量子井戸を用いることで,エキシトントランジスタのゲートへの光照射によるスイッチングに成功した.今後は,ZIONの結晶成長手法として新たに開発した2段階成長法を用いることでZION膜のさらなる高品質化を実現する.これにより,エキシトントランジスタにおいて,ゲートへの電圧印加によるスイッチングの実現を目指す. 2. 室温汎用型エキシトン量子ビットの実現:エキシトン量子ビットはゲートに光が使えるという大きなメリットがあり,相互干渉性の低い光配線が使用できるため集積化に有利である.従来のエキシトン量子ビットでは,「光による制御性」と「コヒーレンス時間の長さ」の両立が課題であったが,本研究では室温・長寿命エキシトンを用いることによりそれらを同時に達成するとともに,従来エキシトン量子ビットでは不可能であった室温での量子メモリ動作を実現する.研究期間内に,ZION歪量子井戸内のエキシトンについて,量子状態の保存と破壊の機構をRabi振動 (コヒーレント光が照射された量子状態が光の吸収と放出を繰り返す現象)の観測を通して解明する.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:当初購入を予定していた,量子井戸形成用真空装置治具の購入費が少なく済んだため.またその他に計上していた分析費用についても,研究協力者にその分析を依頼したことで0となった.予定していた学会参加も来年度に行うことにしたため,未使用額が生じた. 次年度使用額の使用計画:次年度は,デバイスの作製・動作実証に注力する予定としており,そのための各種材料の購入費や真空装置部品,電子部品,ならびにそれらの成果発表のための国内外の学会参加費および旅費に支出予定である.また,作成したデバイスの評価のための分析依頼や分析のための旅費等に使用する予定である.
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