2019 Fiscal Year Research-status Report
新奇イオン放出現象を利用した全固体イオンガンの創製
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19K22034
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
西井 準治 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (60357697)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤岡 正弥 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (40637740)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | イオンビーム / ガラス / イオン伝導 / 高電圧 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、様々な質量の1価カチオン(Li, Na, K, Rb, Cs)を放出する『全固体アルカリイオンガン』を開発する。我々が開発した『水素雰囲気コロナ放電処理法』は、1価カチオンを含有するリン酸塩ガラスに対して水素雰囲気中でコロナ放電処理を施し、ガラスから90%以上のカチオンが連続的に排出させることができる。この原理をイオンガンに応用し、従来の約1000倍のイオンを2000時間以上に渡って放出できる小型化イオンガンを開発し、高速・高精細なFIB微細加工、高精度なSIMS分析、黒リン、グラフェンなどの2D材料や、SnSe、TaS2などの層状物質へのキャリヤー導入などへの応用を目指す。 現在、全固体アルカリイオンガンの具体的な設計が終わり、開発に向けて、チャンバーや各種部品の納品を待っている状況である。これらのパーツが到着次第、イオンビームの放出実験に移行する予定である。令和元年度はイオンガンの設計に加えて、固体電解質からのイオン放出現象についてより詳細な研究を行った。本研究におけるイオン放出は、コロナ放電により生成するプロトンを、ガラス中のアルカリ金属イオンと交換させることにより観測されるが、電極に逆バイアスを印加し、ヒドリドを生成することで、アニオンの放出にも使える可能性を見出した。これらの成果は、第80回応用物理学会秋季学術講演会、日本金属学会2019年秋期(第165回)講演大会にて、研究報告を行った。さらに、この原理を使った方法で新規超伝導物質AgxZrTe3を合成し、Materials Research Meeting 2019で招待講演を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究におけるイオンの放出現象は、水素雰囲気中で針状電極に高電圧を印加し、発生するコロナ放電を利用して固体電解質からLi, Na, K, Rb, Cs等の一価カチオンを取り出すものである。このような放電現象を取り扱う中で、針状電極に逆バイアスを印加した場合、固体電解質からF-, Cl-, I-等の一価アニオンが放出されることを見出した。このようなアニオン制御が可能になれば、イオンビームの応用範囲がさらに広がるものと期待される。
また、イオンの放出量は一般に固体電解質のイオン伝導度に応じて増加するが、イオン伝導特性の小さなKClに、逆バイアスを印加してCl-のイオン伝導特性を調べたところ、300℃で試料内部200 V/cm程度の電界が印加されたとき、4×10-6 A程度の電流が観測された。ここから得られるCl-のイオン伝導度はKClの300℃におけるイオン伝導特性とほぼ同程度であることから、Kイオンが伝導した結果、コロナ放電との界面でKHとなって系外に放出され、結果的に残されたClイオンが放出されているものと予想される。令和元年度は固体電解質中のイオンの拡散挙動についても理解が進んでおり、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度はイオンガンにおける具体的な開発を進める。コロナウィルスの影響で、チャンバー等の納品が遅れているが、到着次第、装置の組み立て、電源系統の整備を行い、真空中へのイオン放出実験を開始する。処理温度、印加電圧、針状電極と固体電解質の距離、固体電解質の種類等、各種パラメータを調整して、ファラデーカップから計測されるイオン電流量を調査する。さらに、印加電圧を制御することで、アニオンとカチオンの切り替えが可能かどうかについても検討を進め、汎用的な全固体イオンガンの実現に向けて研究を推進する。
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Causes of Carryover |
イオンビーム装置に使用するチャンバーの納期が遅れたため。今年度初めにチャンバーが到着しているので、研究には大きな支障をきたさない。
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