2019 Fiscal Year Research-status Report
生体活性リン酸カルシウムにおける表面ポテンシャルの電子論的起源解明
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19K22048
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松永 克志 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20334310)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 電子状態計算 / バイオセラミックス / 表面・界面 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体骨の持つしなやかな機械的性質は、コラーゲン繊維とアパタイト(HAP)結晶との静電的相互作用が起源となっている。つまり、生体材料特性の発現において、六方晶構造をもつHAP結晶表面の静電ポテンシャルが重要因子となっている。しかし、「HAPのa面は正、c面は負に帯電」という、従来の経験的知見に対する電子・原子レベルの起源は未解明であった。本研究では、第一原理計算を用いて、HAP/水溶液界面での安定原子配列およびHAPの表面ポテンシャルとその結晶方位依存性の起源を解明することを目的とする。 初年度は、まず計算モデルの検討を行った。結晶から切り出した表面スラブと、十分広い真空領域からなるスーパーセルを用いた。表面スラブは、スラブ中心部の原子配列・原子間距離・結合角、さらには電子構造が完全結晶のそれと同じになるような十分な厚みを持つように設定した。表面としては、a面とc面を検討した。さらに各表面において、幾つかの異なる終端原子面が考えられる。それらを考慮した表面スラブを含むスーパーセルを用い、真空および水溶液と接する表面における最安定構造を決定した。その結果、水溶液に接する場合、真空中とは異なる表面原子配列で安定となることがわかった。次に、第一原理計算で得られる電子密度から表面ポテンシャルを算出した。具体的には、表面での静電ポテンシャルと水溶液バルク中のそれとの差を指標として検討を行ったところ、a面とc面の表面ポテンシャルの違いを示唆するような結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度においては、まず計算モデルの検討を行った。表面としては、a面とc面を検討した。さらに、各表面に対し異なる終端原子面を考慮した計算を行った。 次に、HAP/水溶液界面計算では、水溶液部分に連続溶媒モデルを適用した。この計算手法を、異なる終端面をもつa面とc面に適用し、最安定表面構造を決定した。次に、第一原理計算で得られる電子密度から表面ポテンシャルを算出した。a面とc面の表面ポテンシャルの違いを示唆するような結果が得られている。今後は、その普遍性を確認するため、HAP以外の金属酸化物などにも適用し、検証を行っていく。 以上のことは当初計画通りであり、おおむね計画通り進捗しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
表面ポテンシャルの計算結果を実験結果と比較検討し、結晶方位依存性の電子論的起源を明らかにする。また、HAPは非化学量論組成をとりやすいことが知られている。よって、表面でのCa欠損や不純物イオンなどのの点欠陥の表面ポテンシャルへの影響も検討する。
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Causes of Carryover |
まず、計算条件確立のためのテスト計算を網羅的に行う必要性から、多大な計算コストを想定して、大型計算機使用料を見込んでいた。しかし研究が順調に進んだため、計算機使用料が抑えられた。また、年度末の学会発表を計画していたが、開催中止となったため、旅費として計上していた一部も次年度使用に回ることになった。 次年度はさらに研究を進めるため、計算機使用料および成果発表のために、これら経費を使用したい。
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