2019 Fiscal Year Research-status Report
非磁性酸化物の欠陥誘起磁気相転移と欠陥強磁性を利用したデバイスの提案
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19K22055
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 勝久 京都大学, 工学研究科, 教授 (80188292)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村井 俊介 京都大学, 工学研究科, 助教 (20378805)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 酸化物 / 欠陥強磁性 / ナノ結晶 / ナノ周期構造 / 磁性材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
非磁性酸化物のナノ結晶を生成し、欠陥に捕獲されたスピンが巨視的な強磁性をもたらすとされる欠陥強磁性を実現するとともに欠陥の高濃度化に伴う強磁性から反強磁性への相転移を見いだすこと、また、ナノ結晶の周期的配列を構築し、ナノ結晶の磁化容易軸の向きを揃えることで、欠陥強磁性の短所である小さい磁化を克服した磁性材料を開拓することが本研究の目的である。ナノ結晶の周期構造を構築することにより、回折による光の閉じ込めを利用した高機能磁気光学材料への展開も試みる。 2019年度は欠陥強磁性の報告があるTiO2を対象に研究を進めた。特に結晶の本質的な物性を明確にする目的で、多結晶ではなく単結晶を中心にトップダウン法でナノシリンダーアレイを作製することを試みた。ルチル型構造のTiO2単結晶にナノインプリントを施して構造パターンを描き、電子サイクロトロン共鳴を利用したArイオンスパッタによりエッチングを行い、構造を形成した。得られた試料の微視的構造を走査型電子顕微鏡を用いて観察し、ナノシリンダー状のTiO2が周期的に配列した構造体の生成を確認した。また、TiO2単結晶の面方位の異なる試料や、個々のナノシリンダーの大きさや配列の周期と構造を変えた試料についても実験を行い、多種類の単結晶TiO2ナノシリンダーを得ることに成功した。 先に研究代表者と研究分担者は、ナノインプリントと反応性イオンエッチングによりTiNナノシリンダーアレイを作製し、その耐酸化性を調べる過程で、TiNアレイは形状や周期配列を保ったまま最終的にルチル型TiO2ナノシリンダーアレイに変換され、精度の良い2次元フォトニック結晶として動作することを見いだしている。この手法もTiO2ナノ構造の構築に有効であると考え、2019年度はTiNの酸化過程を数値シミュレーションと透過率の測定から調べ、酸化の機構を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TiO2のナノ構造の構築は、これまでの研究では非晶質や多結晶のTiO2を対象に電子線描画を利用して行われた例があるが、ルチル型構造の単結晶TiO2のナノ構造を作製した例は報告されていない。これは、一般に酸化物のような硬度が大きく脆性である材料は物理的・化学的加工が難しいことが主な理由であると考えられる。本研究では物理的な微細加工技術の一つとして効率的なエッチングが期待される電子サイクロトロン共鳴を利用したイオンビーム加工を試み、結晶面方位、ナノシリンダーの直径や周期、シリンダーの配列方法など条件が異なる場合について、単結晶TiO2のナノ周期構造の形成に成功した。本研究課題である非磁性酸化物の欠陥導入による強磁性発現の機構の解明とデバイス化に向けて、TiO2ナノ結晶を作製する一つの手法が整えられた。 また、TiO2と比較してトップダウンでの微細加工が容易なTiNのナノ構造を利用してTiO2のナノ構造を作製する手法は、当初の研究計画には含めていなかったが、TiNナノシリンダーアレイの酸化過程を制御することによりTiO2に点欠陥を導入することが可能であることから、それらが磁性に及ぼす影響を調べることで研究目的を達成できると考えられる。この観点から、2019年度はTiNナノシリンダーの酸化過程を数値シミュレーションにより解析し、透過スペクトルの実測値との比較により構造モデルの妥当性を検討して一定の成果を得た。すなわち、酸化はTiNナノシリンダーの表面から進行すると考え、表面をTiO2、内部をTiNとした構造モデルを仮定して数値計算を実行したところ、測定値を再現するような透過率を得ることができた。 このように、本研究は当初は想定しなかった成果も得ながらおおむね予定通り進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度はTiO2を中心に研究を進め、TiNナノシリンダーアレイの酸化によりTiO2ナノシリンダーアレイを作製するといった研究も行い、特にTiNの酸化過程に関する知見が得られた。そこで2020年度は、この手法を積極的に利用することを考える。TiNからTiO2への変換過程を制御することができれば、たとえば、TiO2の酸化物イオンの一部を窒化物イオンに置換した化合物の生成が可能になると考えられる。その場合、TiO2に窒化物イオンと同時に正孔が導入される可能性があり、電子的欠陥のスピンの相互作用が強磁性を導くことが期待される。あるいは窒化物イオンが結晶内に留まらず、酸素欠陥をTiO2内に生じる可能性も考えられ、その場合は当初の目論見通り点欠陥注入に起因する強磁性について考察できる。2019年度に作製に成功した単結晶TiO2ナノシリンダーについても還元雰囲気での熱処理により酸素欠陥の導入を試みる。 加えて、別の欠陥強磁性体であるZnOについても研究を進める。ZnO薄膜あるいはバルク結晶を対象に、ナノインプリントと電子サイクロトロン共鳴を利用したイオンビーム加工によりナノシリンダーアレイの作製を目指す。さらに、TiNの例に倣い、Zn薄膜をシリカガラス基板上に蒸着し、ナノ加工を施したあと酸化によりZnOナノ構造の構築と点欠陥の導入を試みる。 2020年度は磁性と磁気光学効果の評価にも注力する。磁化測定は機構の解明を念頭に置いて磁化の磁場ならびに温度依存性を調べる。磁気光学効果はファラデー効果の波長依存性を調べ、2次元フォトニック結晶としての特徴が磁気光学効果にどのように反映されるかを考察する。 本研究課題は2020年度が最終年度であるため、これまでの研究成果を整理し、論文や学会発表の形で積極的に公表することを目指す。
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Causes of Carryover |
2019年度は研究計画通りTiO2ナノシリンダーアレイの構築を試み、単結晶TiO2が難加工性物質であるにもかかわらず、電子サイクロトロン共鳴を利用したイオンビーム加工により、目的とするナノ結晶とその周期配列の作製に成功した。一方、前述の通り、研究代表者と研究分担者は、先にTiNナノシリンダーアレイの耐酸化性を調べる過程で、TiNアレイは形状や周期配列を保ったまま最終的にルチル型TiO2ナノシリンダーアレイに変換され、精度の良い2次元フォトニック結晶として作用することを見いだしており、本研究課題に着手したのち、この酸化反応をTiO2ナノシリンダーアレイの構築と欠陥の導入に利用できるという着想を得るに至った。本研究ではナノ構造の構築に加えて磁性と磁気光学効果の評価を実施することを計画しているが、これらに関する研究を行う前に、TiNの酸化によるTiO2の生成の過程を調べるべきであると考え、当初は予定していなかった酸化過程のモデル化と数値シミュレーションによるモデルの妥当性の評価に注力した。そのため、研究課題の目的は変わらないものの、当初の研究計画からマイナーな変更が生じ、磁化や磁気光学効果の測定とその解析に準備していた経費(主として低温での測定に必要な冷媒に係る経費)を2020年度に繰り越し、2020年度に磁性と磁気光学効果を評価することとした。
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