2019 Fiscal Year Research-status Report
多色刷り金属付加製造による 相転移するラティス構造の創製 ー4Dプリントの開拓ー
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19K22063
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小泉 雄一郎 大阪大学, 工学研究科, 教授 (10322174)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | Additive Manufacturing / 4Dプリント / 合金化 / 相転移 / 結晶構造 / 双安定性 / 異種金属 |
Outline of Annual Research Achievements |
異種金属の組合せの例として、視覚的に粉末の区別し易い、Ti-6Al-4VとCuを選択して、金属粉末床の境界部に電子ビームを照射した際の溶融・凝固挙動について、照射後の形態、高さ、元素分布を評価して調べた。2種類の金属からなる粉末床を形成するために治具を作製し、Ti-6Al-4VとSUS304の円柱上にCuとTi-6Al-4V合金の2領域から成る厚さ150μmの粉末床を形成した。ビーム強度4水準、ビーム走査速度4水準を組み合わせた計16通りの条件でビームを照射した。照射後の試料表面を、レーザー顕微鏡及び走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。また、元素分布をエネルギー分散X線分光法(EDS)により分析した。Ti-6Al-4V基板の場合、ビーム照射方向に関わらずCuがTi-6Al-4V粉末の領域にまで流出する現象が確認された。この原因として、表面張力や粘性の違いの影響が考えられる。濡れ広がり挙動は、固液界面のエネルギー及び粘性、さらに組成や雰囲気にも依存するため定量評価には詳細な検討が必要である。Cuの表面張力が低いことが、CuがTi粉末側に流出した原因の一つである可能性がある。SUS基板の場合、低走査速度におけるCu→Ti方向の走査では粉末が飛散したが、ビーム走査速度を高めることで、CuとTiの両方の溶融凝固が可能となった。また、ビーム走査方向をTi→Cuにすることで、CuとTiが残存した。これらの原因について、熱伝導や電気伝導の観点から検討することで、適切な条件選択の指針が得られると期待される。 一方、樹脂プリンターにより、相転移を発現する格子の試作を行い、その変形挙動と格子の形状パラメータとの関係についてのデータも取得した。相転移を担う曲がり梁の厚さや振幅に加えて、垂直梁および水平梁の厚みが、二つの安定構造の安定性や、遷移に要する力に大きく影響することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
異種金属の組合せた粉末床への電子ビーム照射実験を遂行した。具体的には、2種類の金属からなる粉末床を形成するために治具を作製した。これにより、異種金属粉末床の境界部に電子ビームを照射した際の溶融・凝固挙動について、照射後の形態、高さ、元素分布を評価して調べることを可能にした。これについては当初の予定どおりである。但し、用いた金属については当初の予定から変更した。当初は、Fe、Ni、Tiで実験する予定であったが、予備実験を行ったところ実験条件ごとに挙動が大きく異なり、当初の予定どおりの元素粉末での実験では、頻繁に広範な元素分析を行う必要が生じるため、視覚的に異種金属の区別のつくTiとCuの組み合わせで実験を継続することにした。また、粉末を置く基板の材料によっても挙動が異なることが判明したため、基板としてTi-6Al-4Vに加え、SUS304を用いた実験を行った。これにより粉末の元素と基板の元素が区別し易くなった。また治具を改良することで、実験の効率を向上させた。それまでは1条件毎に真空引きを行う必要があったが、考案した治具により16の条件での実験が1度の真空引きで行えるようになった。また、電子ビーム照射装置に高速度カメラを固定する治具を設計・作製し、ビーム照射時の粉末の挙動を観察することを可能にした。そのセットアップを用いたビーム照射実験と元素分析により、異種金属粉末床へのEB照射で生じる現象を捕らえることを可能とした。当初予定からの変更はあるものの想定範囲であり、実験データも取得できている。さらに、樹脂3Dプリンタを用いた相転移する格子の製作やその力学特性の評価も進めており、格子の幾何学的パラメータと相転移挙動との関係のデータも取得できた。その中で、垂直梁と水平梁の厚みの役割などの想定以上の新たな知見も得られていることから、概ね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在まで、異種金属粉末を使った複材造形が可能な粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion)型の付加製造(Additive Manufacturing:AM)装置の普及を想定して、異種金属を組み合わせた粉末床の特に異種金属境界部分への電子ビーム照射による溶融凝固挙動の研究を進めてきた。一方、AM装置の開発動向の変化は大きい。異種金属を組み合わせた造形を可能とするAM装置として、指向性エネルギー堆積(Directed Energy Deposition: DED)型の装置、binderと混練した金属粉末を材料押出(Materials Extrusion: MEX)型のAM装置で造形した後にbinderを除去して焼結するタイプの金属造形装置、金属フィラメントを誘導加熱で昇温して樹脂のMEX型のAM装置のように金属を直接付加するタイプのAM装置、金属ナノ粒子を有機溶媒中に分散させたインクを吐出した後にナノ粒子同士が結合することを用いた材料噴射(Material Jetting: MJT)型のAM装置等が開発されている。これらは、複数金属を組み合わせたAM装置としてPBF型よりも適したものになる可能性がある。また、3Dプリンタと呼ばれた方式である結合材噴射(Binder Jetting: BJT)型のAM装置の性能も向上しており、異種金属を組み合わせた部材の製造が可能となりつつある。このような状況を鑑み、当初予定していたPBF型AM装置での複材造形によるだけでなく、これらの新方式の複材造形も視野に入れて研究を進める。具体的には、造形プロセスそのものよりも本研究の根幹となるコンセプトである「相転移するラティス構造の創製」の実証に重心を移して研究を展開するため、複材樹脂3Dプリンターによるラティスの創製やバイメタルを用いたラティスの製造とその相転移挙動の評価の研究も進める。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、現在開発されている異種金属粉末を組み合わせて造形できる、粉末床溶融結合型金属3Dプリンター(Additive Manufacturing装置)を用いて実験を行うことを想定していた。しかしながら、その装置の市場投入は難航しており、現在も使用できる環境にない。そのため、方針を修正して、PBF以外の3Dプリンターを用いて、また、材料も金属にこだわらずに、本研究の根幹となるコンセプトである相転移するラティスの創製を実現すべく研究を進めてきた。当初予定していた実験研究の代わりに、計算機シミュレーションを用いた設計を、樹脂プリンターを用いた検討を先行して行った。そのため実験に用いる予定であった研究費を次年度に使用することとなった。
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Research Products
(11 results)