2019 Fiscal Year Research-status Report
低加速二次電子像におけるコントラスト増幅観察法の開発
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19K22065
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
板倉 賢 九州大学, 総合理工学研究院, 准教授 (20203078)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
熊谷 和博 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (20582042)
都甲 薫 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (30611280)
安田 雅昭 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30264807)
赤嶺 大志 九州大学, 総合理工学研究院, 助教 (40804737)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 走査型電子顕微鏡 / 二次電子 / 像コントラスト / モンテカルロ理論計算 / 低加速SEM / 表面物性計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
最近の走査電子顕微鏡(SEM)は表面敏感性が格段に向上した反面、従来のSEM像コントラストの常識が通用せず、何が見えているのかが直ぐには理解できない事例が増えている。本申請研究では、SiGe薄膜において結晶と非晶質とで低加速SEMの二次電子(SE)像コントラスト(SE収率)に違いが出る問題を取り上げ、物理的根拠のある成因解明を行うと共に、微弱なSE像コントラストをコンタミ層導入(カーボン蒸着)により増幅して可視化する新たな観察技法の構築を目指す。 本年度は、まずSEM観察および表面物性計測に適した固相結晶化(SPC:Solid-Phase Crystallization)Ge薄膜試料の作製条件の検討を行った。SEM観察に基づく作製条件(結晶化熱処理条件、基板材料等)の変更により、結晶と非晶質が適度に混在し、かつ帯電の影響が小さいGe薄膜試料を作製・用意できた。また、試作したSPC-Ge薄膜において加速電圧やワーク長を種々変化させた系統的な低加速SEM観察を行い、Ge薄膜試料の結晶化領域と非晶質領域での低加速SE像コントラストには明瞭な違いが出ることを確認した。さらに、SEM観察時のビームスキャンによりコンタミ層が導入され、結晶と非晶質とでSPC像コントラストが増大して、Ge結晶領域がより明瞭に観察可能になることが確かめられた。一方、Ge薄膜のSPC像コントラストをモンテカルロ理論計算で取扱うために、SEスペクトルの仕事関数依存性について計算機実験を行い、SE像コントラストがコンタミ層により変化する可能性を仕事関数の観点から検討した。今後、用意できたSPC-Ge薄膜試料について実験データの取得を行なってSPC像コントラストの成因解明を進めると共に、コンタミ層を模したカーボン蒸着膜の導入実験を行うことで、SE像コントラストを増幅する新たな観察法の開発を目指していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究遂行のためには、低加速SEM観察に支障を来さない帯電の影響を受け難い試料で、かつ結晶と非晶質が適度に混在した(すなわち部分的に結晶化した)高品質なSiあるいはGe薄膜試料が必要になる。まず高品質なGe薄膜結晶が得られるSPC法において、非晶質Ge薄膜堆積後の結晶化熱処理時間の調節を行うなど、解析に適した部分結晶化SPC-Ge薄膜試料の作製条件を探索した。また帯電の影響を抑制するために、SiO2絶縁ガラス基板から導電性のある熱酸化Si基板へと素材を変更した。このような解析試料の準備に予想以上に時間がかかり、表面物性まで計測できるSPC-Ge薄膜試料が昨年末にようやく準備できた段階である。ただし、試作段階のSiO2ガラス基板SPC-Ge薄膜試料を用いることで、低加速SEM像データはある程度取得できており、着目するSPC像コントラストの違いや、ビームスキャンによるSE像コントラスト増大などの現象は再現することが確認できている。しかし、年度末に予定していた表面物性計測は、新型コロナウィルスの影響による緊急事態宣言により未だ実施できていない。 一方、モンテカルロ計算による理論的解明については、昨年実施できた出張を利用した研究打合せを中心に、仕事関数変調のSE放出への影響の観点から議論を進めており、仕事関数の影響がビームスキャン(コンタミ層)により変化する可能性についても検討を始めている。こちらも年度末の出張により予定していた研究打合せが、緊急事態宣言を受けて実施できておらず予定より遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度も、A班(顕微解析と総括)、B班(解析試料作製)、C班(表面物性計測)、D班(理論解析)の体制により、以下の課題に取り組む。 <課題1:SPC像コントラストの成因解明> 昨年度準備した熱酸化Si基板SPC-Ge薄膜試料をA班とC班で解析する。A班では観察条件(加速電圧、ワーク長、検出器)を系統的に変えながら低加速SEM像を取得し、観察条件とSPC像コントラストの関係を明確化する。また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた表面状態解析を行う。C班ではオージェ電子顕微鏡(AES)、表面電位顕微鏡(KFM)、光電子分光分析(ESCA)による表面物性計測を行い、SPC像コントラストの成因を探る。これらの結果を基にD班のモンテカルロ計算を構築し、SPC像コントラストの根拠の明確化を試みていく。 <課題2:コンタミ層導入によるSE像コントラスト増幅> まずSPC像コントラストについて、C班にてコンタミ層の有無に伴う表面物性の差異をAES、KFM、ESCA測定等で明確にする。この結果を参考に、A班ではSPC-Ge薄膜表面にコンタミ層を模したカーボン膜を種々の厚みで蒸着し、SPC像コントラスト増強に最適なコンタミ層の厚みや観察条件を探索していく。またD班ではモンテカルロ計算により、SE像コントラスト増強の物理的根拠の明確化を試みる。 以上の結果を総括して、微妙なSE像コントラストをカーボン蒸着膜導入により増幅可視化する物理的根拠のある新しい観察法として提案したい。なお、新型コロナウィルスの影響による研究の遅れは、インターネットを利用した遠隔会議などの利用により、政府方針など規則を遵守し、一般倫理に則した形で進めていく。
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Causes of Carryover |
[現在までの進捗状況]欄に記述したように、本研究の解析に適したSPC-Ge薄膜試料の準備に予想以上に時間がかかり、分担者の協力で計画していた表面物性測定などは年度末にようやく実施できる状態になった。ところが年度末より新型コロナウィルスの影響で、出張も含めて通常通り実験ができない状態が現在も続いている。特に、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた表面状態解析についてはまだ手付かずの状態で、この実験のために計上していた物品費は全く執行できていない。また、モンテカルロ計算のための研究打合せ(旅費)も新型コロナウィルスの影響で実施できず、さらに実験の遅延からデータ解析補助のための謝金も執行できなくなった。現在の予定では、5月上旬より緊急事態宣言が解除される予定なので、解除され次第研究が遂行できるよう準備を進めている。 緊急事態宣言が解除され、[今後の研究の進捗方策]欄に記述した実験が実施できる状態になれば、前年度の繰越額を含めてほぼ予定通り使用できるものと思われる。
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Research Products
(1 results)