2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K22079
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 哲志 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (80398106)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 細胞固定化剤 / マイクロ流路 / 光分解性材料 / ヒドロゲル薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、細胞接着剤を塗布したマイクロ流体デバイスを用いて細胞を瞬時に破砕し、直前まで生きていた細胞の細胞膜裏側の表面に直接、自由自在に分子ツールを作用させ、膜近傍の分子システムを単一細胞レベルで定量的に解析する技術を開発する。研究開始前の準備状況として、細胞接着剤としてPEG脂質を用いてマイクロ流路底面に細胞を固定し、緩衝液の高速送流による細胞破砕を介して、細胞膜の裏側が露出した細胞膜シートを得ることに成功していた。本年度は、細胞膜の裏側解析を1細胞ずつ網羅的かつ定量的に実現するための基礎技術を二つ開発し、論文投稿と特許出願を行った。 まず、1細胞レベルの定量的な解析を可能にするため、光応答性のPEG脂質を用いて1細胞アレイを作成し、細胞破砕を介して細胞膜シートアレイを形成することを目指した。しかし、1細胞アレイの構築のために用いてきた光分解性PEG脂質は細胞固定化力が弱く、細胞破砕時に必要な高速送流の10分の1の流速でほとんどの細胞が外れてしまうことが分かった。そこで、本年度は、細胞固定化力の強い光分解性PEG脂質の開発を行った。細胞を固定する際に細胞膜と相互作用する脂質部位と、光分解性リンカーとの間の構造を変えた小ライブラリーを合成し、細胞固定力の強い光分解性PEG脂質を探索した結果、細胞破砕時の高速送流に耐えられる固定化力の分子を開発することに成功した(投稿論文として発表)。 次に、細胞の固定化面にリガンドを作用させ、その直後の細胞膜裏側を解析するために、流路底面と細胞との間にリガンドを徐放するためのゲル薄膜を挿入する系の構築を試みた。均一で数マイクロメートルの厚みのゲル薄膜を基板表面に固定し、その上にPEG脂質を高密度で修飾する手法を新たに開発し、ゲル薄膜上に細胞を固定化する技術として特許出願を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標として、1細胞レベルの細胞膜シートアレイを調製するための基礎技術の開発と、応用研究として解析対象となるGPCR恒常発現細胞の種類の拡充を計画していた。本年度の成果として、細胞破砕時の流速に耐えられる強度の光分解性細胞固定化剤の開発に成功し、細胞膜シートアレイを調製するための材料の準備は終了した。また、レトロウイルスを用いた遺伝子導入法により、新たに二種類のGPCRを恒常発現するマウスproB細胞株を構築することにも成功した。これより、ここまでで概ね、当初の計画通りの成果を得ることができた。さらに、共同研究候補者との面談を通して、細胞の固定面からのリガンド刺激の重要性に気付き、細胞固定面にリガンドを徐放できる系の構築も追加で行い、基礎技術を構築することに成功した。従って、当初の計画以上に伸展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までで、1細胞レベルの細胞膜シートアレイを調製するための基礎技術の開発が終了したため、今後は、まず本年度に、細胞破砕を介した細胞膜シートアレイの調製法、および、抗体染色を中心とした細胞膜裏側解析法の確立を行う。具体的には、ロイコトルエンB4(LTB)受容体を恒常発現する細胞を用いて細胞膜シートアレイを調製し、破砕前のLTB濃度に依存した細胞内ドメインのリン酸化量の変化、および、共役するGタンパク質の種類を免疫染色法によって1細胞レベルで定量的に調べる。その上で、本技術の応用研究として、細胞破砕前のLTB濃度に依存した細胞運動性や脱顆粒と、破砕後の細胞膜裏側における受容体のリン酸化との相関を調べ、免疫細胞の炎症部位でのケモタキシスと脱顆粒のスイッチング機構を解明する。 次年度は、本技術を用いて、細胞膜シート上でGPCRとのタンパク質間相互作用(PPI)に対する薬剤ライブラリーの阻害効果を定量的に解析するシステムを構築し、細胞膜シート上でのシグナル伝達の再構成にも挑戦する。
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Causes of Carryover |
当初の想定よりも安価な原料と実験材料を用いて基礎技術が開発できたため、物品費を低減させることができた。また、新型コロナウイルスの感染拡大のために、参加予定の国内学会、および、遠方の共同研究者等との対面式の打ち合わせが中止となり、旅費が計画よりも少なくて済んだ。以上の理由より、次年度使用額が生じた。この研究費は、今年度に追加したゲル薄膜を用いた課題を検討するための物品費や人件費として使用する計画である。
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