2019 Fiscal Year Research-status Report
再生可能発電と放射性元素変換を同時に実現する反応場としての金属ナノ構造の機能開拓
Project/Area Number |
19K22081
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田辺 克明 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60548650)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
Keywords | 水素 / 金属 / エネルギー / 核融合反応 / 表面化学 / 水素貯蔵 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では重水素を充填したPdに電圧を印加することで核反応と考えられる異常反応を誘起するという報告に基づいて金属固体中での異常反応の観測を実際に行った.温度だけでなく,中性子線の測定や質量分析を行うことで,本異常反応に関する考察を行った. 中性子線ピークの観測と急激な温度の上昇を観測した.対照実験としてD2を充填しなかったPd試料においても同様に通電加熱を行ったが,中性子線のピークや急激な温度変化は観測されなかった.実験系において,Pd試料への投入電力と散逸する熱についての熱収支を取ることにより,過剰熱を算出した.急激な温度変化をしている時間では投入電力を大きく上回る発熱を確認することができた.実験初期にみられる負の過剰熱は水素の脱離による吸熱であると考えられる. 実験開始時と中性子線ピーク観測時における質量分析結果において,中性子線ピーク時の圧力は実験開始時に比べ,質量数4では減少しているのに対し,質量数3では上昇している.これらの結果より,D原子同士の核融合反応が起こり,3Heの生成と中性子線が発生した可能性が考えられる.ただし,質量分析に関しては質量数3で検出されたと考えられる3HeとHDの質量数が殆ど変わらないため,3HeとHDを分離しての分析が困難であること,また,中性子線に関しては感受線量の測定のみであり,エネルギー帯を把握できていないことには留意する必要がある. 実験後,複数のサンプルにおいてPd試料が収縮,湾曲していることが確認された.Pd試料への水素吸蔵,放出過程にてD原子がPdの格子間隙に入り込むことによって格子定数の変化を示唆する結果である.また,本異常反応の反応機構の解明には,電界だけでなく変形の影響を考慮した金属固体中の原子輸送メカニズムの検討が重要であると考えられる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた一通りの実験および分析を行うことができたため。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究においては,再現性の更なる向上は必須課題である.また,本異常反応が核融合反応であるかどうか,核融合反応であればどのような反応機構であるのか明らかにすることも同様に重要である.今後の方針として, 再現性の向上のため最適な温度や材料形状,Pd板に蒸着させるAuの膜厚といった反応条件の最適化を行う.また,表面ナノ構造による電界増強効果に着目している.本実験で重要なファクターの1つである電界を増強することで,再現性の向上が期待される.中性子線のエネルギー帯を測定する装置を導入し,核融合反応で生じる中性子線のエネルギー帯と本実験で生じる中性子線のエネルギー帯を比較することで,核融合反応であるかの検討が可能であると考えられる.さらに,反応機構の解明に向け,分子シミュレーションで水素原子同士が接近している際のポテンシャルエネルギーの計算を行う.Pdの有無や電界によるエネルギーの変化を検討することで,反応機構解明の一歩を目指す.
|
Causes of Carryover |
一部の使用機器について他研究室からの譲渡を受けることができたため。これにより、高額なパラジウム材料を当初の予定より多く購入することができるようになるため、より多様な種類の条件にて実験を行う予定である。
|