2019 Fiscal Year Research-status Report
Creation of topological phases and simulation of electronic states using atom manipulation technique
Project/Area Number |
19K22135
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
南任 真史 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (90300889)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 原子操作 / 低温STM / 分子グラフェン / トンネル電子分光 / エッジ状態 / 超伝導ギャップ |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、Cu(111)面上にCO分子の三角格子を形成し、表面状態の二次元自由電子に周期ポテンシャルを導入して、グラフェンと類似の電子状態を有する“分子グラフェン”を形成する実験を行った。これまで既にこの構造を形成し、局所状態密度が分子グラフェンの副格子に依存して変化することが判っている。今年度は、分子グラフェンのエッジ状態を観察し、zigzag端とarmchair端での電子状態の違いの直接観測を目指した。 分子グラフェンを形成してそのままエッジの位置でトンネル電子分光を行っても、有意な差は観察されなかった。これは、エッジの外側のCu(111)面が金属であるため、グラフェンのエッジと類似の状態が再現されていないためである。エッジ状態が形成されるためには、分子グラフェンのエッジが絶縁体と接している必要があり、これを実現するため、エッジの横にCO分子を密に並べることを試みたが、これには飛躍的に多くの回数の原子操作を行う必要がありこれまでのところ成功していない。 この他に、来年度以降に予定している実験の準備や予備実験も行った。本研究ではCu(111)面上にPbの単原子層を形成して同様の実験を行うことで、分子グラフェンにスピン軌道相互作用を導入することを考えている。そこで、今年度は、Pbの蒸着源と膜厚モニターを装置に導入し、蒸着制御のためのキャリブレーションと条件出しを行った。また、マヨラナフェルミオン検出の実験では、超伝導状態の基板上でトンネル電子分光を行い、超伝導ギャップ内のゼロバイアスに表れるピークを観測する必要がある。そこで、9.3 Kの転移温度を持つ超伝導体であるNbの(110)面上でトンネル電子分光を行った。冷凍機を用いた2.5~3 Kでの測定で、3meV程度の超伝導ギャップとその両側に現れるコヒーレントピークが観測され、装置の持つ十分なエネルギー分解能が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
今年度の前半は、実験に用いている低温STM装置のトラブルが続いた。この装置は自作したものであるが、完成してすぐに初期不良的なトラブルが幾つか出たものの、それらを解決してからここ4~5年の間はトラブルもなく安定に動作していた。しかし、中長期的な使用によりハードウエアに負担がかかり続けたことによる部品の劣化などが原因で、幾つかのトラブルが連続して起こったため、延べ4~5ヶ月の間実験がストップしてしまった。超高真空かつ低温という装置の性格上、ハードウエアの修理には最低でも1.5ヶ月はかかるため、複数回のトラブルはそのままこれくらいの時間のロスになってしまう。部品が劣化した部分に関して対策・改良を施してからは、トラブルも無く安定に動作しているので、今後は遅れた分を取り戻すべく、集中して実験を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、目的とする構造を一つ創り出すために必要な原子操作の回数が、これまでの実験より遥かに多い。このため、実験の成功には、一回の原子操作にかかる時間の短縮とその成功確率の向上が欠かせない。 通常の原子操作の実験では、まず、高空間分解能を有しそれが安定に続くSTM探針の状態を作り出す。これは、STM測定を行いながら、探針を試料表面に軽く接触させて調整することで実現している。良好な探針が得られたら、構造を作るのに理想的な平坦でステップがない位置に移動し、原子操作の実験を開始する。初めは高確率で狙った位置に吸着種を動かせるが、徐々に探針が劣化してその確率が低下する。成功確率がある程度以下になったら、構造を構築している位置から離れた場所へ移動し、再び探針を理想的な状態にする作業を行い、また、元の位置へ戻って原子操作を継続するということを繰り返す。しかし、この探針の再生プロセスはリスクが高く、何回かに一回は失敗して実験終了となっているのが現状である。 そこで現在、原子操作の過程で劣化せず、再生プロセスの必要がない安定な探針の作成を目指している。具体的には、探針の材料にPt/Ir合金を用いて、Pt(997)面上で、電界蒸発・広域スキャン・大電流を伴う接触の三つを組み合わせて行うことで理想的な探針の作成を試みている。探針が良好な状態になったら、試料をCu(111)に替えてCO分子を吸着させ、探針を最後まで表面に接触させずに実験を完遂する。この方法で得られた探針は原子操作で劣化しにくく安定であり、吸着種との結合が強く原子操作の成功確率も高いことなどが判明しており、作成条件の最適化を進めているところである。現状、探針の準備にかける時間の方が実験の時間より長くなっており、目的の遂行が遅れているが、安定な探針が再現性良く作れるようになれば、実験進行の速度を飛躍的に向上出来ると考えている。
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Causes of Carryover |
今年度は、予期しなかった装置のトラブルが連続して発生し、その対応に追われたために実験計画にかなりの遅延が生じた。このため、装置の修理や問題の解決などに必要な費用に優先して予算を投入せざるを得ず、また、学会に参加しなかったため旅費は発生しなかった。更に、年度の終わりに装置の超高真空環境の維持に不可欠なイオンポンプのコントローラーの故障が判明し、実験の安定した継続維持のため、新たにコントローラーを購入することを決めたが、高額なため、その時点での予算残額では購入出来なかった。従って、2019年度予算の残額に2020年度予算の一部を加えて、新しいイオンポンプのコントローラーを購入する。その他の2020年度予算については、実験の進行に合わせて臨機応変に、必要なものから優先して購入していくことを考えている。
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