2019 Fiscal Year Research-status Report
π電子系機能物質化学の革新を招く供与性π結合エンジニアリング
Project/Area Number |
19K22165
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
庄子 良晃 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (40525573)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 供与性π結合 / ホウ素 / 窒素 / シクロブタジエン / ポリアセチレン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ホウ素-窒素(B-N)結合において形成される供与性π結合を合目的的にエンジニアリングするための基礎化学を確立することを目的とする。具体的には、B-N 結合をこれまでにない対称性と連結様式をもって組み上げ「無機シクロブタジエン(CBD)」および「無機ポリアセチレン」骨格を構築し、その徹底的な構造・物性検討を通じて、供与性π結合の「形成を制限する」「方向を制御する」といった、自在な操作を可能にする分子技術を開発する。これらの検討を通じ、π電子系機能物質科学の未開拓領域を拓くとともに、関連分野に非連続的発展をもたらす先進材料創出を目指す。今年度は、無機CBDの創製と電子・光電子機能の開拓に焦点を当て検討を実施した。ホウ素および窒素原子上に嵩高いアリール基を導入することで、水・空気に安定なBN-CBDの創製に成功した。興味深いことに、BN-CBDは酸素脱気下、室温溶液状態でマイクロ秒オーダーの寿命の青色発光を示した。発光挙動の温度依存性と速度論解析から、この青色発光は燐光であることを見出した。理論計算により、BN-CBDは基底状態において窒素原子とホウ素原子にそれぞれ局在化したHOMOおよびLUMOを有することが明らかになり、この特徴的な軌道と四員環のジオメトリーに基づき、励起状態において効率的なS1からT1への交換交差が起きていることが強く示唆された。得られた知見は、供与性π結合エンジニアリングによる新機能探求において重要な土台となる。 さらに、BN-CBDに対して求核剤を作用させることで、定量的に開環反応が進行し直鎖型BNオリゴマーが得られることを見出した。本反応を利用することで、合理的かつ効率的なBN-ポリアセチレンの合成が可能になると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度において、ホウ素-窒素原子間の供与性π結合の形成が制限されたBN-CBD骨格を有する化合物を対象に、極めて特異な発光特性と励起状態特性を見いだすことができた。この知見は、供与性π結合のエンジニアリングを主題とする本研究にとって重要な土台となり得る さらに、定量的なBN-CBDの開環反応も見出しており、本研究が目標とする物質系の合成手法が確保できた。以上の理由により、本研究は「概ね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、BN-CBDの系において得られた知見を展開し、理論計算を用いた分子デザインにより、様々な発光色を示す燐光発光性BN-CBD誘導体を開発する。さらに得られたBN-CBD誘導体を発光材料あるいはホスト材料として発光デバイスに実装し、素子性能を検討する。また、BN-CBDの開環反応を利用した直鎖型BNオリゴマー(= 無機ポリアセチレン)を開発し、その電子・光電子機能を探求する。
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Causes of Carryover |
本研究において、極めて効率的に物質開発が行えたことにより、当初予定していたよりも大幅に少ない消耗品費で化合物を合成することができた。また、共同研究者の有する設備を利用することで、分光分析および理論計算を効率的に実施することができた。以上の理由により、次年度使用額が生じた。当該研究費は、2020年度における物質開発のための有機合成用試薬および溶媒、重水素化溶媒、不活性化ガスなどの消耗品費に充てる。
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Research Products
(4 results)