2019 Fiscal Year Research-status Report
触媒量のチタンアルコキシドを用いるredox-neutralなラジカル発生法
Project/Area Number |
19K22182
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
岩澤 伸治 東京工業大学, 理学院, 教授 (40168563)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 光化学反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、可視光照射条件下、触媒量のチタンあるいはジルコニウムアルコキシドを用いるredox-neutralなラジカル種の発生法を確立し、これを利用した効率的な炭素骨格構築法の開発を目的として研究を行っている。本研究を開始する時点での知見として、基質としてジフェニルメタノール存在下でテトライソプロポキシチタン(Ti(Oi-Pr)4)にトルエン中で300~450 nmの光を照射すると、1,1,2,2-テトラフェニルエタンおよび1,1,2-トリフェニルエタンが得られることを見いだしていた。この結果を踏まえ、Ti(Oi-Pr)4に光照射するとTi-O結合のホモリティックな開裂が起こり、イソプロポキシラジカルと三価のチタンTi(Oi-Pr)3が発生するという仮説のもと、三価チタン種を活性種とする触媒的な還元反応を実現することを主目的に研究を行った。まず、前述の反応に関しさまざまな検討を行った結果、10 mol%のTi(Oi-Pr)4にシクロオクタン中1等量の酢酸を加え110 ℃でLEDを用いて365 nmの光照射を行うと1,1,2,2-テトラフェニルエタンが46%と触媒量以上得られることを見出した。酢酸を添加しないとその効率は大幅に低下する。また、100 ℃以上の加熱も必要であった。さらに溶媒であるトルエンとのカップリング体の生成も確認されたので、水素源の添加について検討を行った結果、2-プロパノールを添加することでその生成が抑制され、目的の二量化体を70%程度の収率で得ることに成功した。この反応では光照射により三価のチタンが生成し、これがジフェニルメタノールの炭素-酸素結合を一電子還元により切断しジフェニルメチルラジカルを発生させ二量化体を与えるとともに、四価のヒドロキソチタンが生成し、2-プロパノールとの反応により触媒が再生しているものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、Ti(Oi-Pr)4に光照射するとTi-O結合のホモリティックな開裂が起こり、イソプロポキシラジカルと三価のチタンTi(Oi-Pr)3が発生すること、生成した三価のチタンの還元力を利用してアルコールの炭素-酸素結合を還元的に開裂し、炭素ラジカル種を発生させることができること、これにより二量化体が得られるとともに四価のチタンが再生し、この反応を触媒的に行えることを明らかにした。これは合成化学的に有用な還元種である三価のチタンを触媒的に発生させ炭素-炭素結合生成反応に利用できることを示したものとして、意義深い成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは今年度見出した反応のさらなる触媒効率向上、基質適用範囲の拡大、可視光の利用などを検討し、光エネルギーを利用した三価チタン種の発生法として確立する。特に現時点で適用できる基質がジアリールメタノールに限られており、還元力の増強が課題である。そのために配位子の検討が重要であり、まずはこの点に集中して取り組みたい。チタン化合物には多様な配位子を持つものが知られていることから、膨大な検討が必要と考えられるが、さまざまなチタン錯体を合成し還元力の向上、基質適用範囲の拡大を目指す。さらに配位子によってはチタン化合物が着色するものもあることから、可視光エネルギーの利用にもつながる可能性があり、その実現も目指したい。また、現時点では二量化反応が進行しているが、生じたラジカルを用いて分子間ラジカル付加反応やラジカルカップリング反応へと展開し、合成的に有用な反応の実現を目指す。
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Causes of Carryover |
本年度の研究では、新たに知見を得ることに成功した一つの反応の反応条件を徹底的に検討を行ったため、基質一般性の検討や他の反応への展開に関する検討を行うことができなかった。次年度は今年度の成果を踏まえ、配位子の検討に加え、様々な基質を合成し基質一般性の展開を図ると同時に、新たな展開を目指した検討を行う予定であり、その際さまざまな試薬やクロマト剤、有機溶媒の購入が必要となるので、その経費として使用予定である。
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