2020 Fiscal Year Research-status Report
触媒量のチタンアルコキシドを用いるredox-neutralなラジカル発生法
Project/Area Number |
19K22182
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
岩澤 伸治 東京工業大学, 理学院, 教授 (40168563)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 光反応化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、光照射条件下、触媒量のチタンアルコキシドを用いるredox-neutralなラジカル種の発生法を確立し、これを利用した効率的な有用炭素骨格構築法の開発を目的として研究を行っている。前年度の研究を継続し反応条件の検討を行った結果、基質としてベンズヒドロールを用い、10 mol%のテトライソプロポキシチタン存在下、クロロベンゼン中20 mol%の酢酸、及び水素原子供与体として5倍モル量のイソプロピルアルコールを添加しLEDを用いて365 nmの光照射を行うことで、基質の酸化体の生成を抑制し、目的の二量化体の収率を74%にまで向上させることに成功した。続いて基質一般性の検討を行った結果、電子供与性基であるアルキル基やメトキシ基の置換した基質では70%前後の良好な収率で目的の二量化体が得られた。一方で、電子求引性基であるメトキシカルボニル基の置換した基質では、目的の二量化体の収率は38%と低収率であった。また、フッ素原子や塩素原子の置換した基質では良好な収率で目的の二量化体が得られたのに対し、臭素原子の置換した基質においては、UV光を用いる本反応条件で基質が分解してしまい、目的の二量化体は低収率であった。 続いて反応機構に関する検討を行った。本反応では光照射により4価のチタン種から3価のチタン種が発生し、これが還元剤となってベンズヒドロールからジフェニルメチルラジカルが発生していると想定している。そこで3価のチタン種と反応し4価のチタン種を与えることが知られている、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシルを反応系中に添加して反応を行ったところ、目的の二量化体は一切得られず、原料のベンズヒドロールが回収された。また、添加したイソプロピルアルコールからアセトンが生成していることも確認でき、これが水素原子供与体として働いていることを確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、テトライソプロポキシチタンに光照射するとTi-O結合のホモリティックな開裂が起こり、イソプロポキシラジカルと三価のチタンが発生すること、生成した三価のチタンの還元力を利用してベンジルアルコールの炭素-酸素結合を還元的に開裂し、炭素ラジカル種を発生させることができること、これにより二量化体が得られるとともに四価のチタンが再生し、この反応を触媒的に行えることを明らかにした。これまでにも合成化学的に有用な一電子還元剤である三価のチタンを触媒的に発生させ利用する研究が活発に行われてきているが、従来法では化学量論量の金属還元剤を用いたり、電子源としてアミンを用いて光酸化還元触媒を利用して発生させるものに限られていた。これに対し本反応はイソプロピルアルコールを水素原子供与体として用いる新しい形式の三価チタンの触媒的な発生法であり、従来の触媒的な三価チタンを利用する合成反応開発に新たな可能性を示したものとして、意義深い成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに確立した反応のさらなる触媒効率向上、基質適用範囲の拡大、可視光の利用などを検討し、光エネルギーを利用した三価チタン種の発生法として展開する。特に現時点で適用できる基質がジアリールメタノールに限られており、ベンジルアルコールでは収率が大巾に低下する。反応条件、添加剤、配位子等の検討を通じて、基質適用範囲の拡大を目指す。また、現在検討中であるが、配位子を工夫することで現在の365 nmより長波長の可視光照射で本反応を行う。 また、生じたラジカルを用いて分子間ラジカル付加反応やラジカルカップリング反応へと展開し、合成的に有用な反応の実現を目指す。
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Causes of Carryover |
本年度の研究を実施している際、可視光エネルギーを利用することで同様の反応が進行することを見出した。紫外光に代え可視光の照射で反応を進行させることは、実用性や太陽エネルギー利用の観点から重要な展開であり、本研究の目的を精緻に達成するために必要不可欠である。翌年度はこの点に焦点を絞り、基質適用範囲の拡大、反応効率の向上、分子間ラジカル付加反応への展開等について研究を実施する計画である。なお、経費は研究の実施に必要な消耗品にあてる。
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