2019 Fiscal Year Research-status Report
Proposal and development of novel mechanical bonds
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19K22183
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
瀬川 泰知 名古屋大学, 理学研究科, 特任准教授 (60570794)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 機械的結合 / トポロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
有機化学は、新たな結合、新たな結合形成手法の開発によって発展してきた。共有結合によって原子が集まることで「分子」となり、また共有結合より弱く可逆な結合性相互作用(配位結合・水素結合・クーロン相互作用等)によって「超分子」が構築され、各結合様式によって多様な物性をもたらす。そのような結合の中で最も弱く、"究極の結合"と言えるものが機械的結合である。2つの輪が幾何的に連結したカテナン、1つの輪の中に1つの棒が通ったロタキサンの2種類の機械的結合が知られている。これらはそれぞれ1960年、1967年に初めて合成され、その後の合成法の改良や分子機械への応用展開によって2016年のノーベル化学賞に輝くなど、現在大きく注目を集めている。我々は単純な発想から、輪をもたない2つの分子からなる機械的結合が存在するのではないかと考えた。我々は、この「カテナンでもロタキサンでもない第3の機械的結合」について、その存在の実証および応用展開を行なった。まず第3の機械的結合構造をもつ化合物を実際に合成することで、この機械的結合の様式が存在することを実証した。2つのユニット間に電子的な結合性相互作用がないことを明示するために、ヘテロ原子をもたない芳香族炭化水素をユニットとして選定した。剛直さや置換基の大きさの異なる数種の類縁体を合成し、機械的結合としての安定性を評価することで、第3の機械的結合構造を合成する上での分子設計指針を得た。同時に、量子化学計算をもちいて第3の機械的結合構造の熱安定性を定量的に予測する手法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、「カテナンでもロタキサンでもない第3の機械的結合」の存在の実証および応用展開である。第一年度である2019年度は、まず計算化学的手法によって分子デザインおよび機械的結合の可否を判定した。機械的結合のテンプレートとなる中心部位には、カテナン合成に頻繁に利用されている銅フェナントロリン錯体や、我々が以前報告した新しいカテナン合成テンプレート「スピロビジベンゾシロール」を用いた。テンプレートの周囲に剛直な置換基を導入したものを種々計算し、機械的結合として機能するかどうかを判定したところ、ターフェニルやアントラセンといった構造では大きさおよび剛直性が不十分であり2つのユニットが乖離するものの、トリプチセンであれば十分に安定な機械的結合として機能することが示唆された。また、トリフェニルメチル基はボーダーラインであり、実際に実験によって確かめる必要があることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の計算化学的予測に基づいて、実験化学的な実証を行う。また、計算と実験の両輪による第三の機械的結合の多様化を行う。2019年度に設計した機械的結合は2つのユニットが同形である。一方で、剛直なユニットと柔軟なユニットを組み合わせたロタキサン様の機械的結合も可能である。第三の機械的結合の特色のひとつとして、環ではないためらせん不斉を有するユニットを使用することができ、非線形光学材料や不斉反応へと応用範囲が広がる。複数の分岐をもつユニットを用いたものや、多成分機械的結合も設計できる。これらを網羅的に合成し機械的結合の性質を詳細に調べたのち、分子吸着・動的ポリマー・分子機械へと応用してきたい。例として機械的結合構造をもつ分子ギアの模式図を示す。これはカテナン・ロタキサンでは実現困難な造形であり、第三の機械的結合によって初めて実現する重要な分子機械ユニットであると期待できる。
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Causes of Carryover |
本研究は、計算科学による予測と実験による実証の両輪によって遂行される研究である。当初の計画では、初年度である2019年度と次年度である2020年度のどちらにおいても、計算と実験を1:1で行う予定であった。しかし計算科学の面から追加で検討をすべき課題が見つかったため、2019年度は計算科学の検討を優先した。計算科学は分子科学研究所計算科学研究センターのリソースを用いて行い、2019年度に行う予定であった実験部分をすべて2020年度に繰り越すことにした。トータルの研究に費やすエフォートは同一であり、順序の変更のみである。計算科学によって新たに得られた知見をもとにすでに複数の分子設計に成功しているため、2020年度に行う合成実験は当初の予定よりもスムーズに進行すると予想している。2020年度は、有機合成実験に使用する消耗品、および学会発表に付随する旅費、論文発表に際して必要になる英文校閲費に使用する。
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Research Products
(13 results)