2019 Fiscal Year Research-status Report
キラル液晶性イオン液体の創成と不斉電気化学重合への応用
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19K22221
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
赤木 和夫 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 教授 (20150964)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 液晶性イオン液体 / イオン性液晶 / 不斉電気化学重合 / ヘリカル共役ポリマー / 酸化・還元状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、液晶性を有するイオン液体を創成し、これを重合溶媒に用いることで、支持電解質を用いることなく、イオン液体のイオン導電性を利用した電気化学重合法を開発し、さらに、液晶性イオン液体にキラル化合物を添加することで不斉電気化学重合を実施することを目的とする。初年度での研究実績は以下のとおりである。 (1) イミダゾリウムカチオン部位の両サイドに、フェニルシクロヘキシル液晶基とシアノビフェニル液晶基を有するイオン液体(LCIL)を合成した。さらに、対アニオンとして、ブロマイドアニオン(Br-)を導入して、液晶性イオン液体 (LCIL-Br: Type 1)を調製した。(2) 合成したLCIL について偏光顕微鏡、示差走査熱量計、X 線回折を測定し、液晶性と相転移温度、および液晶相の帰属を行った。(3) 液晶性を示すイオン液体(LCIL-Br)とキラリティを有するイオン液体(LCIL-BNP)を混合して、キラル液晶性イオン液体(N*-LCIL)を調製した。(4)N*-LCILと、らせんの巻き方向が既知の標準液晶との接触試験(相溶試験)を行い、N*-LCILのらせんの巻き方向を判別した。(5) このN*-LCILを溶媒として、3,4-ethylenedioxythiophene(EDOT)の電気化学重合を行った。(6) 走査型電子顕微鏡を用いて、PEDOTポリマーの形態観察を行い、フィブリル束のらせん形態の形成を確認した。(7) 重合直後のPEDOTフィルムは電気化学重合の特徴である酸化状態(ドーピング状態)をとるため、電気化学的に脱ドーピングを行い、中性状態のPEDOT フィルムを得た。(8) 酸化状態および中性状態のPEDOTフィルムについて、紫外可視近領域での吸収および円偏光二色性スペクトルを測定し、コットン効果の発現と、吸収における非対称性因子を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究により、液晶性を有するイオン液体を合成し、さらにキラル化合物を添加することで、キラリティを有する液晶性イオン液体を創成することに成功した。これを不斉電気化学重合の溶媒として用いることで、らせん状積層構造を有する芳香族共役ポリマー、ヘリカルポリエチレンジオキシチオフェン(H-PEDOT)を合成することができた。合成したH-PEDOTは、高次構造であるポリマー形態において、らせん状のフィブリル束を有しており、キラル液晶場のキラリティにより、ポリマーのヘリシティを制御できることを確認した。従来の電気化学重合ではイオン伝導を確保するため、支持電解質の使用が必須である。しかし、支持電解質は、嵩高くかつ極性が高いためポリマーから完全に取り除くことは難しく、導電性や光物性を低下させる要因となる。本重合では、イオン液体のイオン伝導性を利用するため、電荷担体としての支持電解質を用いる必要はなく、画期的な重合法と位置づけられる。 本研究成果の一部は物質科学の専門誌(Advanced Functional Materials,2019)に掲載済みである。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の液晶性イオン液体では、カウンターアニオンとして臭素アニオンを用いており、また、液晶場にキラリティを付与させるために、軸不斉ビナフチル誘導体をキラルドーパントして用いた。そのため、液晶性イオン液体を用いた電気化学重合では,支持電解質を用いる必要はないが、キラルドーパントを用いることに変わりはなかった。 そこで、今後の推進方策として、液晶性イオン液体の対アニオンに、臭素アニオンに代わって、キラルビナフチルホスフェイトを用いることで、キラル液晶性を有するイオン液体を合成し、外部から支持電解質とキラル化合物を添加する必要のない革新的な不斉電気化学重合法を構築する。これらにより、イオン液体の潜在的有用性を高めるとともに、高純度で高性能のヘリカル共役ポリマーをもたらす不斉電気化学重合を実現する。 ヘリカル共役ポリマーとしてH-PEDOTを対象として、PEDOTフィルムの元素分析と極微量化学分析、さらにバンドギャップと電気伝導度等の物性評価を行い、本電気化学重合法の潜在的優位性と汎用性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
2020年初期に三つの国際会議(バルセロナ、ローマ、タイ)の出席を予定していたが、新型コロナウイルスの世界的感染拡大のため、2020年度に延期となった。そのため、海外出張費として計上した予算を使うことができず、次年度(2020年度)に改めて同じ費目で使用することになった。
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