2019 Fiscal Year Research-status Report
Generation of cell-based hydrogels as supra-functional materials
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19K22223
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
長濱 宏治 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 准教授 (00551847)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | ハイドロゲル / 細胞 / 細胞機能 / 自己修復ゲル |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞ゲル内の細胞が示す反応として細胞間結合形成に着目し、細胞間結合形成を起源として、ゲル全体にマクロな機能を創出することに取り組んだ。 200万個のC2C12筋芽細胞で細胞ゲルを作製し、同じ手法で作製した細胞ゲルを容器内で重ねて圧着すると、ゲル同士が接着した。カドヘリンを用いた細胞間結合はカルシウムイオン依存的であるため、カルシウムイオン濃度が異なる培地中で静置し、ゲルの接着強度を調べたところ、カルシウムイオン濃度が0.5%では接着強度が575 Nであるのに対し、0.4%では106 Nに低下し、0.3%以下では接着しなかった。これより、ゲル接着の要因はゲル界面で起こる細胞間結合だと示唆された。2014年にXie(シェ)らは、2つのC2C12細胞が形成する細胞間結合力は2.23 nNだと報告している。私の実験では、200万個のC2C12細胞を用いてゲルを作製しており、ゲル表面にはその100分の1、約2万個の細胞があると仮定すると、2万個の細胞が生み出す細胞間結合力は、2.23 nN×2万で、44.6μNと計算できる。遠心実験で実際に得られたゲル接着力は575Nで、計算値の約1290万倍であった。この結果より、1対の細胞間結合力は小さくても、多くの細胞間結合が協同的に働く多価効果により、ゲルの接着力が飛躍的に高まったと考えている。 細胞ゲルが示す接着機能を活用し、自己復元能を与えることに取り組んだ。バラバラにした刻んだ筋芽細胞ゲルの破片を同じ容器内に入れて圧着し18時間静置すると、バラバラだったゲル断片が接着して一塊になり、元の形状に復元した。つまり、細胞ゲルは、ゲル界面の細胞同士が形成する細胞間結合により、自己復元能を獲得することが示された。私は、細胞ゲルの界面で起こる細胞間結合を、ゲルネットワーを介してゲル全体に拡張することで、自己復元するゲルを世界で初めて創った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、①細胞ゲルの材料特性を理解すること、そして②細胞ゲル内の細胞が示す反応を起源としてどのようなゲル機能を創出できるのか、を調べることを目的とした。 ①について、ゲルの物性を左右すると考えられる要因(細胞の種類、細胞へのアジド基導入数、ゲル化反応時の細胞濃度、ゲル化反応時のアルキン化高分子濃度)を系統的に変化させて細胞ゲルを作製することができ、それらの物性(含水特性、弾性率、接着強度)、分解特性を解析した。上記要因とゲル物性の解析より、相関について考察し、得られた知見を細胞ゲルの設計にフィードバックし、上記の要因を調整することにより、一部のゲル物性を制御することができた。 ②について、細胞ゲル内の細胞が示すどのような反応や応答が、ゲルに動的応答や創発機能を発現させる起源となるのか理解するため、細胞ゲル内の細胞が示す反応や応答を網羅的に定量解析した。特に、細胞間結合形成について詳細に解析し、細胞間形成にもとづいてゲル全体に新奇な機能を発現させることに成功した。 以上より、今年度はおおむね計画した通りに成果をあげることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続き、細胞ゲル内の細胞が示す反応や応答を網羅的に解析し、細胞ゲル内の細胞が示すどのような反応や応答が、ゲルに動的応答や創発機能を発現させる起源となるのか理解する。解析する予定の細胞反応や応答の一部を以下に示す。 細胞遊走:タイプラプス撮影により細胞ゲル内での細胞移動距離を定量解析し、遊走性を調べる。また、サイトカインの添加による細胞の化学走性も調べる。細胞間結合・組織化:接着細胞を用いて細胞ゲルを作製し、ゲル内およびゲル間での細胞間結合形成を免疫染色法により調べる。また、筋細胞や血管内皮細胞のように組織体(筋線維や血管様管状構造)を形成する細胞については、組織体形成能も調べる。細胞の分化:間葉系幹細胞を用いて細胞ゲルを作製し、分化誘導因子の添加による細胞の分化特性を免疫染色法により調べる。細胞の物質産生:マクロファージを用いて作製した細胞ゲルをリポ多糖により刺激し、IL-12およびTNF-α産生能をELISAにより定量解析する。 さらに今後は、細胞ゲルが発現する動的応答や創発機能の全容、および発現機構の解明を目的に、上記の細胞反応や応答を起源として、細胞ゲルがどのような動的応答や創発機能を発現するのか徹底的に探索する。また、動的応答や創発機能が発現する機構を解明し、動的応答や創発機能を制御する手法を見出す。想定している起源(細胞の反応や応答)と連動して発現する動的応答や創発機能の一部を以下に示す。 ・細胞ゲル内の細胞の遊走や化学走性を起源として発現する「ゲルの自律運動」および「ゲルの自発移動」・細胞ゲル内の細胞がゲル間で形成する特異的細胞間結合を起源として発現する「選択的なゲル-ゲル間接着」および「ゲルの自己修復」・細胞ゲル内の幹細胞の筋分化および筋線維形成を起源として発現する「ゲルの自律的な物性変換」および「ゲルの自律的な膨潤&収縮」
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Causes of Carryover |
今年度行った研究成果発表のための学会出張に関して、同時期に受給している科研費若手(A)課題7H04744「細胞核ナノトランスポーターの開発および細胞核ドラッグデリバリーシステムへの応用」に関する成果発表も同時に行ったため、出張に係る旅費などはそちらで計上したため、計画していた旅費を執行しなかった。また、予定外に安価で研究が進み、計画していた成果が得られたため、物品費も一部執行しなかった。研究はおおむね計画通りに進行しているため、今年度に使用しなかった助成金に関しては、多くの実験を実施して予定以上の成果を上げるための実験用物品費、上げた研究成果を発表する学会出張旅費、英語の学術論文として投稿発表するための費用などとして使用する。
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Research Products
(5 results)