2019 Fiscal Year Research-status Report
薄膜を駆使したキャリア注入型電子物性制御による水素化物エレクトロニクスの創成
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19K22225
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大口 裕之 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 准教授 (40570908)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 水素化物 / 薄膜 / キャリア注入 / 界面 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究では、高濃度に水素を含む固体である水素化物において、水素由来の高温超伝導などの特殊な電子物性を自在に操るための基礎技術として、水素化物薄膜へのキャリア注入を目指している。そして昨年度は、2種類のアルカリ土類金属水素化物(CaH2およびBaH2)薄膜の合成を世界で初めて行った。 CaH2およびBaH2は、本申請研究で予定している1)水素化物ペロブスカイトの元素置換、2)陰イオンサイト欠陥導入、3)静電的界面キャリア注入、以上3通りのキャリア注入研究に共通の出発原料である。つまり、1)BaLiH3などの水素化物ペロブスカイト合成の原料となり、2)全体の2/3を占める陰イオンサイト水素に欠陥を導入し、さらにはヒドリド(負に帯電した水素イオンH-)伝導を利用した静電的界面二重層の形成による正孔の誘起の、いずれにも利用できる材料である。 申請者のこれまでの研究によって、水素化物薄膜成長においては、薄膜成長温度と反応ガス圧の調整が、酸化物などの他の材料と比べてシビアであることが分かっている。成長温度や水素ガス圧が低すぎると金属と水素が結合せず、一方成長温度が高すぎると膜から水素の脱離が起こってしまうのである。そこで昨年度は、CaH2およびBaH2の薄膜合成にあたって、適切な薄膜成長温度および水素ガス圧の探索を行った。さらに水素ガスは、分子状と原子状の二通りでの供給を行いその効果を比較した。その結果、1.0 × 10-4 Torr以上の水素ガス圧を導入した場合に、基板温度200℃以上でBaH2の単相薄膜を得られることが分かった。そして、BaH2薄膜では、静電的キャリア注入の実施にふさわしい高いヒドリド伝導を確認した。一方、CaH2薄膜は、CaH2相の成長が完全ではなく、相当量のCaが残留しており、膜質改善が必要な状況である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アルカリ土類金属水素化物薄膜の合成:赤外レーザーを用いた低エネルギパルスレーザー堆積法を用いて、世界初となるCaH2およびBaH2の薄膜化に挑戦した。基板にはMgO(100)単結晶を用いた。薄膜成長においては、基板温度は室温から600℃の範囲で、また水素ガス圧は0から1 × 10-2 Torrの範囲で変化させて、薄膜合成を実施した。その結果、1.0 × 10-4 Torr以上の水素ガス圧を導入し、基板温度を200℃以上に設定すれば、CaH2およびBaH2相が成長することがわかった。ただし、CaH2相の成長は、基板温度を600℃まで上げても完全には進行せず、相当量のCaが残留していた。一方BaH2相は、基板温度が200℃から600℃の範囲にある場合に完全に成長しており、単相BaH2薄膜が得られた。温度を600℃に上げても目立った水素抜けは認められなかった。なお、原子状および分子状水素ガスを供給した場合を比較すると、前者の場合にX線回折ピーク強度がより高くなっており、原子状水素が水素化物相の成長を促進している可能性がある。ただし、この点についてはより詳細な評価が必要である。 BaH2薄膜のヒドリド伝導評価: 本研究で合成したBaH2薄膜のヒドリド伝導率は静電的キャリア注入の実施にふさわしい高い値を示した。伝導率の測定にはインピーダンス法を用い、室温から550℃までの温度領域において真空中で評価した。得られた伝導率は、室温から250℃までは、過去に報告された粉末状のBaH2の示した値と同程度であった。ところが、250℃より高温領域では伝導率が急激に低下した。その後温度を室温まで下げて再測定を行ったところ、はじめに比べて伝導率の値が3桁程度低下していた。測定中に薄膜から水素が脱離したことが原因であると考えており、確認中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、予定している3通りのキャリア注入研究のうち、陰イオンサイト欠陥導入と静電的界面キャリア注入に注力する。 陰イオン欠損導入研究では、陰イオンサイトを占める水素位置に欠損を生じさせることによって伝導電子を生み出す。具体的には、薄膜成長温度、水素ガス圧、および水素供給状態を調整して、水素欠陥が生じたCaH2-xやBaH2-xの薄膜を合成する。そして、抵抗率測定およびHall効果測定により、伝導電子の生成およびそれに伴う電子物性の変化を評価する。同時に、水素を敏感に検出できる水素前方散乱法や中性子散乱法により薄膜中の水素濃度を評価する。さらに、X線回折測定を実施し、回折ピークの位置が欠陥生成に伴って徐々に移動することを確認する。 静電的界面キャリア注入研究では、BaH2のヒドリド伝導を利用して、電場によって界面にヒドリドを蓄積し、対向する水素化物薄膜中に正孔を誘起する。水素の界面蓄積状態の確認およびその濃度評価は水素前方散乱法や中性子散乱法により実施する。正孔の生成およびそれに伴う電子物性の変化は抵抗率測定およびHall効果測定により評価する。 以上の実践的研究の背景で、実験精度を向上するために、薄膜成長温度、水素ガス圧、および水素供給状態がヒドリド伝導および水素欠損生成におよぼす影響を調査する。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定していたグローブボックス(200万円)が必要なくなった一方、急遽ハイパーレーザーが必要になった。以上2点の購入計画の変更の結果、約50万円が残った。
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Research Products
(1 results)