2019 Fiscal Year Research-status Report
完全trans型ペロブスカイト酸窒化物強誘電体の実現と光電変換応用
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19K22227
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣瀬 靖 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50399557)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 酸窒化物 / エピタキシャル薄膜 / 強誘電体 / 光電変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
強誘電体の光起電力効果は、極性を再プログラミング可能な光センサーや高効率太陽電池への応用が期待されている。しかし、室温で強誘電性を示す物質の多くはワイドギャップ酸化物で可視光の利用効率が低いという課題がある。本研究では、浅い窒素2pバンドにより可視光吸収を示すペロブスカイト型酸窒化物に注目し、熱力学的に準安定な強誘電相である完全trans型アニオン配列をもつ薄膜の合成に挑戦する。そのための方法として、エピタキシャル歪みによるtrans型配列の安定化を(1)表面エネルギーを利用した自己組織化および(2)Aサイトカチオンへの孤立電子対の導入による正方晶歪みの増強と組み合わせる。 本年度は、方法(1)として(001)面の電荷中性を利用したアニオン配列制御に取り組んだ。具体的には、パルスレーザー堆積(PLD)法を用いてA3+/B4+型のペロブスカイト酸窒化物であるLnTiO2N薄膜(Ln=希土類)をペロブスカイト酸化物(SrTiO3、NdGaO3など)基板上にエピタキシャル成長した。成膜条件を最適化することで大きな正方晶歪(c/a~1.05)を有するLnTiO2N薄膜をコヒレントに成長させることに成功したが、trans型アニオン配列の生成を示す明確な証拠は得られなかった。方法(2)としては、AサイトにSn2+(SnTaO2N)およびBi3+(BiTiO2N)を含むペロブスカイト酸窒化物薄膜の合成を試みた。しかし、いずれの場合も高温で窒素ラジカルを照射するとAサイト元素の脱離が激しく、エピタキシャル薄膜は得られなかった。 また、関連する成果として、リファレンスとして作製したCaTaO2N薄膜の結晶構造を詳細に解析することで、酸窒化物薄膜のヘテロエピタキシャル成長では、酸化物基板との格子定数整合だけでなく対称性(BX6八面体の回転パターン)の整合も重要であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
方法(1)に関しては、A3+/B4+型のペロブスカイト型酸窒化物において、これまで合成したA2+/B5+型化合物と同程度の結晶性を有する薄膜の合成に成功したものの、trans型配列の明確な増大は確認できていない。方法(2)に関しても、目的化合物の高温での不安定性が予想以上で、エピタキシャル薄膜の合成は至っていない。したがって、研究の進捗は当初の計画よりもやや遅れている。一方、これらの結果はいずれも研究計画策定時に想定した範囲内で、対応策は検討済みである。また、基板と薄膜の対称性整合の重要性など、ペロブスカイト型酸窒化物の高品質ヘテロエピタキシーに関する新たな知見も得られている。このため、次項(今後の方策)で示す計画に沿って研究を進めることで目標の達成は可能と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
完全trans型ペロブスカイト酸窒化物強誘電体の合成に関しては、方法(1)として、人工超格子作成技術を応用し、LnTiO2N薄膜のLnN層とTiO2層を1層ずつ交互に堆積するトップダウン的合成を試みる。また、方法(2)に関しては、SnTaO2NおよびBiTiO2Nの単相合成が困難なことがわかったため、SrTaO2NおよびLaTiO2NのAサイトをSn2+およびBi3+で部分置換して母結晶の正方晶歪みの増大を狙う。有望な薄膜が得られたら、直線偏光X線吸収微細構造分光や断面STEM-EELS観察による評価を進める。 また、最近の理論計算によって、Ruddlesden-Popper型の層状ペロブスカイト酸窒化物A3B2O5N2が可視光応答性とBX6八面体の回転に起因する強誘電性を示すことが予想されている(Gou et al., Chem. Mater. 2020)。この化合物の強誘電性はアニオン配列に対して鈍感であるという特徴をもつことから、単純ペロブスカイト酸窒化物のアニオン配列制御が困難な場合には、挟ギャップ室温強誘電体の候補として合成と強誘電性の評価に取り組む。
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Causes of Carryover |
試料作製が予定よりも遅れたため、断面TEMなどの試料分析費用などに余剰が生じた。余剰金は2020年度の研究においてそのまま試料分析費用などとして用いる。
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Research Products
(5 results)