2019 Fiscal Year Research-status Report
Activatableラマンイメージングプローブの開発による生体分子の多重検出
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19K22242
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神谷 真子 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (90596462)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | ラマンイメージング / ラマンプローブ |
Outline of Annual Research Achievements |
生きた細胞内の生体分子と反応して初めてラマン信号を発するActivatable型ラマンプローブの分子設計法を確立するべく、本年度においてはまず、ラマン信号強度を制御するために必要な化学構造要因を探索した。具体的には、9位にアルキンやニトリルを導入した一連のキサンテン誘導体を合成し、キサンテン環3,6位の元素・N上置換基および10位元素の種類により、ラマン信号強度やラマンシフト値(周波数)がどのように変化するか評価した。その結果、前期共鳴条件にかかる吸収波長を有する誘導体では誘導ラマン散乱信号強度が増強するという既報文献と一致する結果となった。さらに、様々なpHの緩衝液中での安定性や細胞内成分との反応性を評価したところ、これらの条件下における安定性・反応性は誘導体毎に異なることが明らかとなり、生きた細胞や組織におけるラマンイメージングを行うにあたり重要な知見を得た。さらに、安定性が高く十分なラマン信号を示す候補母核を選定し、アミノ基にアミド結合を介してアミノペプチダーゼの基質部位を導入したパイロット化合物を設計・開発した。その結果、本プローブは短波長化してラマン信号が低く抑えられているが、標的アミノペプチダーゼとの反応により吸収波長が長波長化してラマン信号が回復することが示され、Activatable型ラマンプローブの母核として適切であることが示された。さらに、アミノペプチダーゼを発現する培養細胞に適用し、生きた細胞内における酵素活性の検出が可能か検討した結果、生きた細胞内における標的アミノペプチダーゼ活性をラマン信号として検出できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ラマン顕微法は、共鳴誘導ラマン散乱顕微法をはじめとした検出系の高感度化によって近年急速に生体適合性が拡大されているが、従来のalways-on型のラマンプローブでは、生きた生物試料の動的な生命活動を可視化することは難しかった。このような背景の中研究代表者らは、これまでに培ってきた蛍光プローブの設計原理をラマンプローブの分子設計に拡張することで、観測標的分子との反応前後でラマン信号強度が変化するActivatable型ラマンプローブの設計指針を得た。ラマン信号は分子振動であるため、その信号強度をon/offすることは極めて困難であると考えられてきたが、可視光領域の吸収波長を非共鳴条件から前期共鳴条件に変化させることで、ラマン信号のactivationが可能であることを本研究で示した。このように生体内分子との応答性を示す機能性ラマンプローブの報告は殆どなく、ラマンイメージング分野における画期的な成果であるとともに、イメージング分野におけるブレークスルーに成り得ると考えている。また、前期共鳴誘導ラマン散乱では、microMオーダーの検出感度で観察が可能であるため、本設計に基づくことで、高感度に生体分子情報を可視化できるようになると期待される。さらに多重検出が可能であるラマンイメージングの特長を最大限に活用することで、蛍光イメージングでは同時に観察することが難しい多数の生体分子を同時に検出することも可能になると期待される。 これらの成果は当初目標としていた計画以上の成果であったため、上記の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
多重検出が可能であるラマンイメージングの利点を最大限に活用するべく、これまでに開発したプローブ母核の同位体標識や置換基修飾を行い、ラマンシフト値(周波数)が異なる一連の誘導体を開発する。さらに、がんでの発現亢進が報告されている複数種のアミノペプチダーゼやグリコシダーゼの基質配列を導入したラマンプローブ群を開発し、標的酵素との反応によりラマン信号強度が変化するか、またその検出感度について精査する。次に、標的酵素を発現する培養細胞に適用し、生きた細胞内における酵素活性をラマン信号強度の変化として検出が可能か、またそのシグナルが阻害剤の同時併用により抑制されるか検証する。さらに、標的酵素の活性パターンが異なる培養がん細胞などの生物試料に適用することで、生きた細胞における複数のアミノペプチダーゼ・グリコシダーゼ活性の同時検出が可能か、またその活性パターンの違いがラマン信号のパターンとして検出できるかを検証する。一方で、これまでの検討から細胞内求核分子との反応性があることが確認された誘導体のさらなる構造展開を行い、細胞内求核分子との親和性・反応速度・選択性・可逆性について精査し、細胞内求核分子を標的とした新たなラマンプローブの開発も試みる。適切な骨格が見出された場合には、これらの誘導体を用いて生きた細胞内における細胞内求核分子が検出可能かも検討する。
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