2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K22283
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
川向 誠 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 教授 (70186138)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松尾 安浩 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 助教 (70596832)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | fission yeast / cell lysis / uracil |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は分裂酵母を用いて、集団としての「生存戦略」を「細胞死」の研究を通して理解しようとするものである。「細胞死」の問題はアポトーシスとネクローシスの考え方に代表されるように、積極的に死を選択するのか、不可避に死を選択するのかに分かれる。今回焦点としている単細胞生物である分裂酵母の現象では、定常期に達し、栄養が枯渇すると、まるでプログラム化されているように、劇的に細胞溶解することと、決して全部の細胞が死ぬのではなく、生存している細胞が存在することに特徴がある。野生株の場合でも長期に培養すると見られる現象がura4破壊株で、短期間で顕著に引き起こされる。今回の発見は、極度に生存状況が悪い場合において、多数の細胞が死滅したとしても、残りの細胞が生存することで、種として維持することができる機構を観察していると捉えている。この時、分裂酵母は単に死んでいるわけではなく、破裂して内容物を放出して劇的に溶解している。約90%の細胞が死に、約10%が生存している。この現象は細胞が栄養源を枯渇した際に、自身を溶解させ、一部の生存した細胞に栄養を提供することで、細胞集団(種)としての生き残るための生存戦略だと捉えることができる。単細胞生物集団において、生存を賭けた積極的な「細胞死」の仕組みがあると考えている。 一連の研究を続けている中で、IMPの合成経路が関与していることがわかった。ura4破壊株でade6の変異を有する時、細胞溶解が抑圧される。ade6は、フォスフォリボシルアミノイミダゾールカルボキシラーゼをコードし、その欠損株では、赤色の物質を蓄積する。同様にade7株でも抑圧効果が示されるのに対して、ade1変異では抑圧効果がなく、特異性がある。プリン合成経路とピリミジン合成経路との間に共通なリボシル基の合成が影響していると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
抗がん剤として使用されているフルオロウラシル (FU)は、ウラシル合成経路に取り込まれることによって細胞増殖を阻害することが知られているが、ウラシル合成経路の制御はヒトにおいても酵母においても重要である。これまでの解析結果から、分裂酵母のura4破壊株の細胞溶解時にはUMP(ウリジン1リン酸)の前駆体であるOMP(オロチジン1リン酸)が特に蓄積してきていることを見いだしている。URA4はオロチジル酸デカルボキシラーゼとして働くが、細胞溶解しない出芽酵母のura4相同遺伝子(URA3)の欠損株では、OMPの蓄積は見られない。その観察結果も含め、OMPが細胞内のトリガーとして、細胞溶解を引き起こしていると考えている。他の分裂酵母のS. japonicusのura4欠損株においても細胞溶解が観察される。 分裂酵母のura4破壊株の細胞溶解に影響する培地成分を調べたところ、ポリペプトンが溶解を促進するが、その中でも単独では尿素が細胞溶解を促進する効果が高かった。尿素を取り込まない株ではその効果が軽減され、尿素から派生したアンモニア体がウラシルの輸送を阻害していると考えている。 細胞溶解を抑圧する変異体の解析を進めたところade6の変異を有する時、細胞溶解が抑圧される。同様にade7株でも抑圧効果が示されるのに対して、ade1変異では抑圧されない。この結果はIMP合成の経路がUMP合成経路との共通の化合物を利用している箇所で、物質の代謝のバランスが変化しているためではないかと考えている。ura4破壊株もade6変異も分裂酵母で最もよく使用されている変異体であることから、このような関係にあることは、よく理解されておくべきことである。
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Strategy for Future Research Activity |
分裂酵母はミトコンドリアに依存した増殖を示す生物種(petite negative;ミトコンドリアを欠損できない酵母)として、他の酵母よりヒトの細胞のエネルギー産生制御系に近い機構を有していることが多くの事例で支持されていることから、分裂酵母で観察される事象を追求する価値は高い。今回解析対象としている単細胞生物における集団としての細胞死の研究の知見は、極めて少ないことから、いわゆる細胞レベルの細胞死とは別に、集団としての細胞死を考えていきたい。極端に栄養が少なくなってきた環境下では、単細胞生物は生きながらえることができないが、ほとんどの細胞が死にその内容物を放出した時に、一部の細胞がその栄養を利用して生きながらえることができれば、細胞集団としては残っていく。この仕組みは生存戦略としては極めて重要であると考えている。 これまでの研究結果から、分裂酵母のura4欠損株が細胞死を誘導し、破裂する直前にOMPが蓄積するがそれが直接的な細胞死のトリガーなのか、さらなる代謝物がトリガーなのかをLC-MSを駆使して調べていきたい。分裂酵母のura4欠損株の細胞溶解はアデニン合成経路中の特定の変異が抑圧することを見出している。今後は、その抑圧の原因とOMPの蓄積の関連性を調べていきたい。さらにミトコンドリアの呼吸欠損株では細胞死を抑圧することから、ミトコンドリアの機能と細胞死の関連の分子メカニズをより詳細に調べていきたい。 分裂酵母における細胞死の研究は、高等生物のようにエネルギー獲得においてミトコンドリア依存度が高い生物種における集団としての「細胞死」の研究のモデルとなることを目標に、新しい概念を構築していきたい。
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Causes of Carryover |
研究を推進するための謝金で研究員に支払ったことによる差額が生じたが、全体の研究遂行には支障がない
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