2019 Fiscal Year Research-status Report
緩やかに繋がりあう微生物―可視化とマルチオミックス解析により真の姿を照らし出す―
Project/Area Number |
19K22297
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
稲葉 知大 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (90760439)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | バイオフィルム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、環境中の微生物は如何様に在るのか?という、単純だが難しい疑問に答えを出すこと目指すものである。環境中には微少かつ構造的に脆弱な「ゆるい」バイオフィルムが存在しているが、それらは既存の微生物学的手法では解析できないためにバイオフィルムとして認識されておらず、現行の微生物生態学は真の微生物生態を明らかにしていない。本研究では「ゆるい」バイオフィルムの分取および非破壊的な可視化、さらに網羅的な遺伝子解析を実施することで、その実態を明らかにすることを目指した。「ゆるい」バイオフィルムの成立には同種・異種を問わず微生物細胞間での相互作用が必要になるが、特に環境中において複合的なバイオフィルム形成に関わる異種間相互作用は未解明であった。 当該年度は「ゆるい」バイオフィルムの分取解析のため、恒久的に廃水処理を行う休廃止鉱山内の水サンプルや都市下水処理水をサンプルとして用いた手法の最適化検討を実施した。その結果、百マイクロメートル程度の大きさを持つ比較的微少な構造体の存在を可視化する事に成功したが、それらを完全な状態で分取・可視化するには至らなかった。加えて「ゆるい」バイオフィルムの成立に必要な要素である異種間のコミュニケーションによるバイオフィルム形成制御について解析を行った。その結果、新たなバイオフィルム形成機構として既存の異種細菌の生産する分子を介した細胞間コミュニケーション制御を発見した。次年度には「ゆるい」バイオフィルムについて、可視化および網羅的解析を実施するとともに、その成立に必要な細胞間コミュニケーション機構等について研究を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サンプル選定が遅れたことやサンプルを提供していただく自治体等との調整のため「ゆるい」バイオフィルムについての分取・可視化等の解析が遅れているが、解析対象の候補となるサンプルが一部得られている。また「ゆるい」バイオフィルムの整理に関わる分子生物学的な解析については解析が進み、成果方向可能なレベルまで進んでいる。実施予定のマルチオミックス解析についても準備は進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の成果により「ゆるい」バイオフィルムの非破壊的な分取・可視化には技術的困難が伴うことが明らかとなったため、次年度はさらにセルソーターの使用や既存の顕微鏡可視化手法に依存しない新たな分取・可視化手法の開発および改良を検討、実施する。またマ「ゆるい」バイオフィルムのルチオミックス解析に至っていないため、rRNAアンプリコンシークエンスを含めた網羅的な遺伝子解析を「ゆるい」バイオフィルム候補のサンプルに対して実施する。一方で、環境中の「ゆるい」バイオフィルムの存在を立証するためには、環境バイオフィルムをより詳細に理解する必要がある。そこで環境バイオフィルムも対象に含めた可視化およびマルチオミックス解析も視野に入れ「ゆるい」バイオフィルムの解析を行う。
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Causes of Carryover |
「ゆるい」バイオフィルムの分取・可視化・解析のためセルソーターおよび共焦点顕微鏡の使用、遺伝子解析にかかる消耗品類を計上したが、当該年度はサンプル採取に係る事務手続に時間を要したことから使用量が計画を下回った。また、円滑な研究遂行ため実験補助員の雇用を予定していたが、希望する人材からの募集がなかった。そのため次年度使用額が発生した。 次年度はさらなる「ゆるい」バイオフィルムの解析を行うため、消耗品類を購入することに加え、新たな分取・可視化手法の検討にかかる消耗品類の購入を予定している。また、研究の進捗により短期間の実験補助員の雇用も計画している。
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