2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of vacuole palette for creating novel flower color
Project/Area Number |
19K22301
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小野 道之 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (50201405)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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Keywords | アサガオ / 液胞 / 花色 / 形質転換植物 / 混色 / プロトプラスト / ベタキサンチン / ベタレイン |
Outline of Annual Research Achievements |
ベタレインはナデシコ目の限られた植物が合成する花の色素であり、アントシアニンと同様に液胞に蓄積する性質がある。しかし、両方の色素を合成する植物種が存在しないため、自然界では同じ液胞内に共存することはない。本研究ではベタレイン合成経路の酵素遺伝子をアサガオに遺伝子導入して花色改変を試みる。花きのモデル植物アサガオ(Ipomoea nil)は、アントシアニンにより多様な色彩を持つナショナルバイオリソース(NBRP)であるが、ベタレインを合成しない。ベタレイン合成経路の遺伝子を導入した遺伝子組換えアサガオの花弁の液胞では、アントシアニンとベタレインの混色による、新規の花色の創出が期待できる。 本年度は、ベタキサンチン(黄色)とベタシアニン(赤色)を合成するアサガオの形質転換植物を、白花系統のAK77で作出した。ベタキサンチンの合成経路を導入した系統では、色の濃さは系統間で異なるが、レモン色を呈する花が得られた。これらの系統の中から、トランスポゾン復帰変異体を得て、アントシアニンとベタキサンチンの両色素を合成する系統を得た。この花はアントシアニンによる濃いマジェンタ色を示したため、少量のベタキサンチン(黄色)の合成では、視覚的な変化は感じられなかった。そこで、花弁プロトプラストを単離して観察を行った。その結果、単一のプロトプラストのアントシアニンで着色する液胞が、暗視野の蛍光顕微鏡下では、ベタキサンチン特有の蛍光を放つことが観察できた。これらの結果は、シングルセルの段階ではあるが、アントシアニンとベタキサンチンの2つの色素を共存する液胞の作出に成功したことを示す。今後、色素の種類と濃度比を変えることにより、視覚的な変化を引き出す計画である。また、新規と思われるベタキサンチン色素の分析や構造決定なども進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベタキサンチン(黄色)を用いた初期の目標は達成しつつある。ベタキサンチンを合成する花では、柱頭だけがピンク色に着色したが、これはアサガオとしては初めての有色の柱頭となった。レモンイエローの花弁とのコントラストも意匠として評価できる。花弁のベタキサンチンは、おそらく新種であることが推察されたが、構造決定に必要な十分量の花弁が得られていない。柱頭の着色はベタシアニン(赤色)であることが判り、柱頭にベタシアニンを合成する酵素系があることが初めて示された。一方で、ベタキサンチンを生産する植物には生育障害が観察されることが判った。中間産物としてのDOPAはアレロケミカルとしても知られることから、活性酸素種が生じるためと推察され、実際に活性染色からもそれが裏付けられた。この原因は、次のステップのDODの酵素活性が弱いことが原因であると推察された。そこで現在、DOPAの合成を花弁に限ること、DODの酵素活性がより高い酵素を使用すること、の2方向からの改良を試みている。また、花弁においてベタシアニン(赤色)の合成量が極めて少ない原因としても、DODの酵素活性が弱いために、ベタラミン酸の生産が少ないためではないかと推察され、実際にベタラミン酸を加えることでin vitroではベタシアニンが合成されることが確認できた。ベタシアニンの色調(赤色)は独自のものではあるが、アントシアニンにも近いものがあることから、両者の共存による混色を観察することは難しい上に、新規性に乏しいことが予想された。さらに、ベタキサンチンは蛍光物質であるため、その生産を容易に検出できるが、ベタシアニンは蛍光を発しないために検出がより困難である。これらを総合的に評価して、次年度はベタキサンチンのみに集中して実験を展開する計画とした。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に得たベタキサンチン(黄色)を生産する形質転換植物を、アントシアニンによって異なる色調を示す別系統に対して交配しており、これらの後代を用いて花弁と液胞の色彩の観察を推進する。また、花弁におけるベタキサンチンの産生量が予想より少なく、産生する植物には生育障害があることを解決するために、花弁特異的な強いプロモーターを入手するとともに(取り寄せ完了)、より酵素活性の強い遺伝子を組み込む準備を進めている(英国の研究者に国際共同研究を依頼中)。新型コロナウイルス防除のため、2020年6月19日までは新規実験が停止中であるが、その後、速やかに再開する計画である。一方で、研究を加速化する目的で、アサガオを離れ、シクラメンを使うことを計画し展開を始めた。アサガオは半日花であり、細胞レベルでの一過性の遺伝子発現等の実験には向いていない。一方、シクラメンの花の寿命は数週間と長く、細胞レベルの実験に耐えることが予想される。シクラメンの花の色素にも鮮黄色が無く、アントシアニン類のみであることなど、アサガオに近い状況にあること、市場価値としては日本の鉢花として、販売量と売上げが第一位である社会的な影響も考慮した。しかしながら、シクラメンはゲノム解析が全く行われていないことが判り、本科研費研究の展開として、科研費「先進ゲノム支援」に申請し採択されて、全ゲノム解析を世界で初めて開始しており、アントシアニン合成系遺伝子の総合的な解析を進めている。科研費の採択期間中には、形質転換植物を作出することは困難であるが、花弁のプロトプラストを用いることで、細胞レベルで世界初のアントシアニンとベタキサンチンの混色実験(液胞のパレット化)をさらに推進する方策である。
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Research Products
(1 results)