2019 Fiscal Year Research-status Report
腸内細菌に由来する匂いは昆虫の社会を司るか?-アリを題材に-
Project/Area Number |
19K22317
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
濱口 京子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (60343795)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋野 順治 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (40414875)
神崎 菜摘 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (70435585)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 腸内細菌 / アリ / 社会性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、社会性昆虫であるアリを題材に、腸内細菌叢に由来する’匂い‘が昆虫の社会行動に関与するか否かの解明を目指す。特に、アリの社会生活の基礎となる同巣認識に注目し、腸内細菌叢の類似性が同巣認識に及ぼす影響について、腸内細菌叢解析およびアリ由来の匂い物質の分析を通して検証する。 初年度は、材料種候補の一つであるクロヤマアリについて、文献検索等により決定したアリ類の腸内細菌叢解析のための実験プロトコールに沿って、腸内細菌叢DNAの増幅を行った。-20℃下で99.5%エタノールに保存したワーカーを材料とし、DNeasy Blood & Tissue Kit (Qiagen)を用いて、一個体ごとに素嚢、胃、腸のそれぞれからDNAを抽出した。Earth Microbe Project (Thompsonら、2017)の方法に沿って16S V4領域を増幅し、PCR産物を電気泳動したところ、素嚢、胃、腸のいずれからも、増幅長300bp程度の明瞭なバンドが得られた。サンガーシーケンス法によって予備的な解析を行ったところ、増副産物には複数の生物に由来する配列が含まれることが示唆された。ただし、その一部は細胞内共生微生物として知られるボルバキアに近似した配列であった。アリ類でもボルバキアによる感染例が知られており、特にヤマアリ属で高い感染率が認められた報告もある(Russell、2012)。よって次年度以降は、ボルバキアが腸内細菌叢解析に与える影響にも留意しながら、研究を進める必要があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
材料種の一つであるクロヤマアリから腸管を取り出し、16SrRNAアンプリコン解析に充分な量の16S V4領域を増幅することができた。また、クロヤマアリではボルバキア由来の配列が増幅されることが明らかになるなど、次年度以降に留意すべき点も抽出できた。よって、おおむね順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず腸内細菌叢解析に供試するためのアリおよびアリ巣の周辺生物のサンプル採集を行う。得られたサンプルから順次16SrDNAアンプリコン解析を行い、腸内細菌叢の類似性と同巣認識との間に何らかの相関が認められるかを検討する。なお、解析結果へのボルバキアによる影響を考慮し、クロヤマアリ以外の材料種の追加も検討する。具体的には、シワクシケアリ、トビイロケアリ、トビイロシワアリを候補として考えている。 また、アリの同巣認識における揮発性の‘匂い’物質の影響評価を進める。アリ類では不揮発性の体表炭化水素が同巣認識フェロモンとして機能するが、これらは接触受容型シグナルであるため、日常の社会生活においては非接触受容型シグナルである揮発性の‘匂い’物質が同巣認識に寄与している可能性が高く、実際にクサアリ類においては実証されている。それらの揮発性物質には腸内細菌叢の代謝産物が含有される可能性がある。次年度は、ヤマアリ類など飼育コロニー個体を用いた行動実験を通じて、非接触型受容シグナルによる同巣認識行動への影響を検証すると同時に、飼育巣から揮発性物質を捕集できるような飼育容器と捕集器具の開発を行う。合わせて、腸内細菌叢の変化が揮発性物質の組成に及ぼす効果を検証するために、飼育コロニー個体への抗生物質処理法を検討する。
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Causes of Carryover |
初年度は条件設定に労力を割いたため、当初予想したほどDNA解析用消耗品を必要としなかった。また、課題採択時に採集適期を過ぎていた種については、次年度以降のシーズン中により効率的にサンプリングすることにしたため、旅費をあまり必要としなかった。以上のことから次年度使用額が生じたが、メタゲノム解析とサンプリングのための旅費に、今後使用する予定である。
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Research Products
(1 results)