2019 Fiscal Year Research-status Report
高解像度超音波画像診断による迅速かつ非侵襲的な海産魚の早期性判定法
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19K22328
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
矢澤 良輔 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (70625863)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 成熟度判定 / 超音波画像診断 / 早期性判定法 / サバ類 |
Outline of Annual Research Achievements |
海産養殖において大量かつ安定的に良質な人工種苗を生産することを最終目標として、親魚群から性判定技術によりメス親魚を選抜し、メスの割合を高めるために、迅速かつ非侵襲的な性判定法として高解像度超音波画像診断による迅速かつ非侵襲的な海産魚の早期性判定法の開発を試みた。具体的には、組織学的解析で性判別が可能な3ヶ月齢、非産卵期および産卵期の1歳マサバを供試魚として、超音波画像診断を実施した。その結果、まず始めに、成熟親魚(カニュレーション法により性判定が可能)を対象に超音波画像診断を実施する。非産卵期および産卵期の1歳マサバについては、高い正確性(正答率95%以上)で超音波画像診断により雌雄の判定が可能となった。しかし、生殖腺の発達が不十分であった3ヶ月齢のサバでは判定が難しかった。 一方、pool-seq法により、マサバの性特異的なSNPsを同定した。これらの性特異的SNPsを利用し、性特異的に増幅可能なPCRプライマーセットを2セット開発した。これらのプライマーを用いて由来の異なる個体について性判別PCRを行い、生殖腺の形態観察による性判別との正答率について確認したところ、マサバにおいて、プライマー1では雄98.5%、雌100%、プライマー2では雄100%、雌96.4%であった。このようにPCR法により雌雄を100%の正確性で判定可能な手法を開発したことにより、雌雄が判明した同一個体の、生殖腺の発達度合いを経時的に超音波画像診断可能となった。今後は、この技術を用いることで、未熟な個体の性判定および、成熟個体の成熟度判定、ひいては質の良い卵を産む親魚を判別する技術の開発を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
迅速かつ非侵襲的な性判定法として高解像度超音波画像診断による迅速かつ非侵襲的な海産魚の早期性判定法の開発を試みた。具体的には、組織学的解析で性判別が可能な3ヶ月齢、非産卵期および産卵期の1歳マサバを供試魚として、超音波画像診断を実施した。高解像度の超音波画像診断のプローブを対象魚の体側に接触させ、背腹軸方向の断面画像を得ることで、上述の形態学的特徴を指標にした性判定を試みた。 その結果、まず始めに、成熟親魚(カニュレーション法により性判定が可能)を対象に超音波画像診断を実施する。非産卵期および産卵期の1歳マサバについては、雌雄ともに高い正確性(正答率95%以上)で超音波画像診断により雌雄の判定が可能となった。しかし、生殖腺の発達が不十分であった3ヶ月齢のサバでは判定が難しかった。 千葉県産のマサバ30尾ずつの雌雄個体からDNAを抽出しpool-seqを行なった。取得した塩基配列は各群ごとに既知の近縁種ゲノム配列にマッピングし、マサバの性特異的なSNPsを同定した。これらの性特異的SNPsを利用し、性特異的に増幅可能なPCRプライマーセットを2セット開発した。これらのプライマーを用いて由来の異なる個体について性判別PCRを行い、生殖腺の形態観察による性判別との正答率について確認したところ、マサバにおいて、プライマー1では雄98.5%、雌100%、プライマー2では雄100%、雌96.4%であった。このようにPCR法により雌雄を100%の正確性で判定可能な手法を開発したことにより、雌雄が判明した同一個体の、生殖腺の発達度合いを経時的に超音波画像診断可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究ではマサバをモデルとして、その解像度が格段に進歩した超音波画像診断装置を用いた性判定技術の開発を目指す。超音波画像診断装置の解像能は改善されたが、これを用いた海産魚の生殖腺の超音波画像データの蓄積は皆無である。特に未熟な生殖腺の本技術による判別については前例の無い挑戦的な研究である。本技術により、性別に関して生理学的な指標を全く示さない個体の性判定が可能となれば、小型で商業価値の低い幼若魚の時期にメス個体のみを集める等、従来の技術では不可能であった新しい発想での親魚養成を実現でき、極めて高い価値を持つ技術となる。本研究を実施する施設では、マサバの種苗生産および親魚養成が可能であり、各成長段階における多数の雌雄のマサバ個体を画像診断に供することで、両性の生殖腺の発達を詳細に追跡可能である。そのため本研究により、超音波診断による各成長段階における身体の断面画像とそれに対応する組織学的、内分泌学的および分子生物学的な解析によるデータを多数の個体から得ることができる。本研究ではまず、超音波による断面像上の生殖腺の形状の雌雄差に着目し、目視による人間の判断で性判定する技術を確立することを目指すが、大量の画像データとその個体に対応する性別および成熟度に関する各種のデータを蓄積、統合することにより、人間の目視では判定できないような僅かな差を持つ画像上の複数のパラメーターを総合的に解析し、性判定のみならず成熟度判定、ひいては質の良い卵を産む親魚を自動的に判別する技術の開発に資するデータとして有用である。さらに、本研究で蓄積される技術的な情報は、海産魚用装置のための機能特化やプローブの形状の改善等に還元可能であり、超音波画像診断技術を、良質の卵を生産するメス親魚を高効率、高精度かつ低コストで選別し、優れた種苗を安定的に生産するための、広く水産利用可能な技術に昇華することを目指す。
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Causes of Carryover |
2019年に、本施設が被災した台風による影響で、飼育していた一部の供試魚を損失した。研究としては概ね、予定通り実施可能であったものの、一部の実験を実施せず、次年度の予定に加えたため、次年度の予算に繰り越した。
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