2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of Dualism Model for Food Choice
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19K22344
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中嶋 康博 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (50202213)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 食選択 / 外部化 / 簡便化 / 食の価値 / Best-Worst Scaling / WEBアンケート |
Outline of Annual Research Achievements |
日常生活を送るために必要な栄養は、通常、一日に数回の食事から摂取される。その食事をどのようにとるのかにおいて、内食・中食・外食などの選択があるが、その背景には食材の吟味や選択、調達や調理のための手間、食事摂取に費やす時間といった要因が複雑に影響を与えている。社会の成熟化によって時間の機会費用が上昇するのにともない、全般的に食の外部化・簡便化が進んできたことをここ数十年の統計を用いて改めて確認した。 ただし現実には、あえて手間のかかる料理を作ったり、時間をかけて食事を楽しんだりする人々も存在する。調理に時間がかかる食品により高い支払い意思額を示す人々が存在することを見いだした海外の研究もあるが、本研究では、日本においても食事の準備に「手間をかける」「楽しむ」という人や場面が存在することを大規模アンケート調査の結果から示し、食事の場面ごとに現れる人々の態度や認識を、food value(食の価値)の観点から明らかにした。 WEBアンケートにより、50,000名(ただし埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県在住の20代から70代の男女、年齢人口比で割り付け)を対象としたA調査、その回答者からランダムに回答を求めた726名に対するB調査を行った。A調査によって食事の準備に対する意識と態度に基づいたクラスター分析を、B調査によって12種類の食の価値についてのBest-Worst Scaling(以下BW)分析を行った。 これらの分析から、日本には、食事の準備に手間をかけて楽しむ層や、逆に全く手間をかけない、あるいは簡便に済ませようとする層、夕食のみ手間をかける層が存在することを明らかにした。これらの層間には、個人属性だけでなく、食に求める価値、特に価格への認識に違いが認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題である食選択の二元論モデルである「生きるための食」(A食)と「楽しむための食」(B食)が存在することは、50000人を対象にした大規模WEB調査(2020年1月実施)のデータを分析した結果、食事の準備に手間をかけて楽しむ層や、逆に全く手間をかけない、あるいは簡便に済ませようとする層、夕食のみ手間をかける層が観察されたことで明らかになった。現在、このような階層を形成する要因を検証しているところである。 この50000人の調査対象者を元に、無作為に抽出した700名(+α)、加えて健康的要因(アレルギー、医師の指示)への配慮、宗教・信念的要因(ハラル、ベジタリアン、ビーガン)への配慮、倫理的要因(有機、人権、動物福祉)への配慮の面で特徴ある食行動が観察される人々から700名(+α)を対象に第二段階のWEB調査を行った。そこでは12種類の食の価値(安全性、栄養価、風味、産地、価格、自然さ、利便性、環境への影響、見栄え、動物福祉、公平さ、目新しさ)についてのBest-Worst Scaling(以下BW)分析をするための質問も加えている。無作為に抽出した700名を対象にした予備的分析は完了した。このあと、食の価値への関心度や価格への反応度などについてさらなる分析を行う計画である。 一方、食にあえて手間をかける特徴ある食行動層の分析にはまだ着手していない。特徴ある食行動といっても、すべての食事機会でそうである人もいれば、ときどき試す程度の人もいる。個人属性や経験などを踏まえながら、どのように手間をかけるか、食行動の規定要因を探索することが次に検証すべき課題である。なお、この行動を左右する意識は、食から分離された要因に基づくものもあれば、食と切り離すことができない要因もあるために、異なったモデリングが求められる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度に実施した調査を踏まえて、2020年度には食シーンを絞り込んだシナリオに基づいたさらなるWEB調査を実施する予定であった。しかし3月末から新型コロナウイルスの感染が拡大し、社会生活に厳しい制約がかかり、在宅勤務と社会活動の自粛を1ヵ月以上にわたって強いられることとなった。最も大きく影響を受けたのは食事である。これまでのような外食ができなくなった。一方でケータリングサービスが充実してきて、中食需要が増えてきた。食費の節約を目的としながら、在宅時間が長くなった分だけ食事の用意をする時間的余裕がでてきたこともあり、内食の機会が格段に拡大した。極めて特殊な状況下での食行動が数ヶ月続いていることになる。このようなウィズコロナ社会における食行動を観察するならば、おのずと「生きるための食」(A食)と「楽しむための食」(B食)の本質が明らかになると予想される。そこで2020年度の前半にWEB調査を再度実施して、2020年1月に実施した前回のWEB調査との比較分析をすることにしたい。この第2回の調査結果を検証した上で、さらに2021年1月あたりの感染が収束したアフターコロナの時期に第3回目のWEB調査を実施できないかと構想を練っている。ただ、もし感染が収束していなければ、2021年度に延期することになる。 一方で当初計画通り、米消費データの分析も行うことになっている。新型コロナウイルスの感染が拡大していく過程で、食料の買い急ぎが一時的に発生したが、米はその典型例であった。米は他の品目に比べて購買頻度が高く、「生きるための食」(A食)と「楽しむための食」(B食)の2面性を明確に有するという特徴を持っており、ウィズコロナ社会での購買行動を深く分析するに値する食品であると言える。
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Causes of Carryover |
本研究の目的は、食品をめぐる多様な消費・購買行動を説明する食選択の二元論モデルを構築することである。食品は、対象となる品目数の多さと購買頻度の高さのために、定番品を選んだり安売り品を即断即決で買ったりしている。一方で、特別な日などにおいてじっくり時間を掛けて、その手間を楽しむ姿も観察される。これらの全く異なった食選択行動を「生きるための食」(A食)と「楽しむための食」(B食)の2種類に区別して分析することを目指した。当初、この仮説(二元論的枠組み)の妥当性についてグループインタビューなどを通して確認してから、モデル化して計量経済的な分析を行うことにしていたが、これまでの予備的な検証を慎重に点検した結果、これまでの情報を基にモデルの構築は可能だと判断した。そこで大がかりなグループインタビューを行うことは中止して、その予算はWEB調査を効果的に繰り返し行うための費用に利用することとした。2019年度に実施した調査での内容を継続しつつ、新たな課題を組み込んだ再度のWEB調査を2020年度に行う予定である。
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Research Products
(1 results)