2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of a novel strategy toward bovine mastitis using an insect antimicrobial peptide
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19K22357
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
米山 裕 東北大学, 農学研究科, 教授 (10220774)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安藤 太助 東北大学, 農学研究科, 助教 (40250732)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 抗菌ペプチド / 乳房炎 / 黄色ブドウ球菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
家畜生産のために使用される抗生物質の量は人の医療用としての用途よりも多く、この過剰な家畜への抗生物質の使用は薬剤耐性菌出現の温床となることから、その使用量の低減化は畜産業の持続的な発展のみならず、人類社会のために解決しなければならない喫緊の課題である。本研究では、酪農現場で最も経済的損失の大きい乳房炎の新規防除法の開発を目指し、既存の抗生物質に比べ耐性菌出現頻度の非常に低い抗菌ペプチドに注目し、中でもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に有効なマダニ由来抗菌ペプチドpersulcatusinの微生物を宿主とした高発現系を構築してその活性評価を行い以下の結果を得た。1)タグとして用いたカルモデュリンとpersulcatusin間のリンカーを、基質選択性の高いTEVプロテアーゼで切断後の未精製標品が抗菌活性を有していた。2)分子内に6個あるシステイン残基のうち5個をアラニンに置換した誘導体の構築と発現に成功し、これらの誘導体が活性を失っていることを明らかとした。3) persulcatusinの作用機序の解明に向け、合成persulcatusin標品を用いたin vitro活性評価系を確立した。4) persulcatusinの作用メカニズムを明らかにするためのアプローチとして、黄色ブドウ球菌の非必須一遺伝子欠損変異株ライブラリー(Nebraska Library)を用いたスクリーニング系を構築し、その中から他抗菌ペプチドの抗菌活性に影響を及ぼすことが知られている変異株を選抜し評価した結果、これらの欠損変異株はpersulcatusinに高感受性を示すことを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題で計画したマダニペプチドの自然免疫を担う抗菌ペプチドpersulcatusinの大腸菌を宿主とした高発現系を構築し、発現誘導したカルモデュリンタグとの融合タンパク質の高発現に成功した。次いで、Ni-NTAレジンを用いたアフィニティー精製後の試料をリンカー配列に特異的なTEVプロテアーゼで切断した結果、遊離したpersulcatusinが生成することが明らかとなり、この部分精製標品試料が黄色ブドウ球菌に対して抗菌活性を有することを明らかとした。次いで、persulcatusinの作用機序の解明するために、分子内に存在する立体構造形成に重要な6個のシステイン(Cys)残基に注目し、その中で5個のCysをアラニン(Ala)に置換した一アミノ酸置換誘導体を構築し発現させることに成功した。これら5個の置換型persulcatusinはいずれも活性を失っており、Cys-Cys結合が活性を発揮するうえで重要であることが明らかとなった。今後、persulcatusinの作用メカニズムの詳細を解析するため、化学合成したpersulcatusin標品を用いたin vitro活性評価法を確立した。加えて、persulcatusinの作用メカニズムを明らかにするためのアプローチとして、黄色ブドウ球菌の非必須一遺伝子欠損変異株ライブラリー(Nebraska Library)を用いたスクリーニング系を導入することを念頭に、先のin vitro活性評価法をさらに改変し、入手したNebraska Libraryのスクリーニングを開始した。 このように、本研究課題の当初の目標である大腸菌を用いたpersulcatusinの生産系の構築、Cys残基をAlaに置換した誘導体の構築と活性評価、in vitroの詳細な活性評価法の確立と改変法の構築を行ったことから、おおむね本研究課題は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度までの研究で、大腸菌を宿主としたpersulcatusinの高発現系の構築に成功し、TEVプロテアーゼ切断によって遊離のpersulcatusinが産生されること、その混合試料に抗黄色ブドウ球菌活性が認められることを明らかとした。また、persulcatusin分子内に存在するCys残基が活性に重要であることが明らかとなり、その作用メカニズムの詳細をさらに追求するために、1)38アミノ酸残基からなるpersulcatusinの6つのCys残基のうち残っている一つのCys残基の変異誘導体を構築し、それらを組み合わせた二重変異体、全てを置換した三重変異体を構築して活性評価する。2) 抗菌ペプチドの活性に重要であることが知られている陽性荷電アミノ酸(アルギニン、リジン)の置換誘導体を作出し、それらの抗菌活性に及ぼす影響を評価する。3) Nebraska Libraryの全ての株をスクリーニングし、persulcatusinの活性発現に影響を及ぼす可能性のある遺伝子群を選抜する。4)抗菌ペプチドは分子内の陽性電荷が選択的な抗菌活性を発揮する因子として重要であることが知られており、ドラッグデリバリーシステムのツールとしての応用が期待される。そこで、persulcatusinを活用した新規抗菌薬の創生を目指し、persulcatusinと他抗菌ペプチド、あるいは黄色ブドウ球菌に特異的な溶菌活性を示すリゾスタフィンの標的結合ドメインとの融合体を構築し、ドラッグデリバリーシステムとしての有用性を検証する。
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Causes of Carryover |
2020年度までの実験において大腸菌を宿主としたマダニの抗菌ペプチドpersulcatusinの高発現系を構築するにあたり、アフィニティー精製後のHPLCによる精製を陰イオン交換樹脂であるDEAEカラムで一段階精製した結果、精製度の上昇が認められた。しかし、当初予定している組換え型persulcatusinの純度には到達していないと判断し、今後、陽イオン交換樹脂などの他モードのHPLC精製を予定している。また、「今後の研究の推進方策」にも述べたように、各種の陽性電荷アミノ酸を対象としたpersulcatusinの置換誘導体の高発現系を構築するために、それらの合成遺伝子を購入する予定である。また、高度に精製したpersulcatusinの構造に関する分析を外部に依頼する予定でありその費用に充当する予定である。
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