2019 Fiscal Year Research-status Report
金ナノ粒子とレーザー光を利用した受精卵の分化制御機構の解明
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19K22364
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
南 直治郎 京都大学, 農学研究科, 教授 (30212236)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 受精卵 / 金ナノ粒子 / 遺伝子導入 / 割球の運命決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、マウス受精卵に導入する遺伝子の検討を行った。哺乳類細胞において、熱刺激によって遺伝子を過剰発現させる方法として、主にヒートショックタンパク質(Hsp)のプロモーター配列が用いられる。しかし、Hspa1bはマウス受精卵の2細胞期後期の胚性ゲノムの活性化時期に熱刺激なしで発現することがわかっていることから、熱刺激によってのみ発現が上昇する遺伝子のプロモーターを探索する必要がある。マウス由来のHspa1a、Hspa1b、およびHspa1bのオーソログであるヒト由来のHSPA6のプロモーター配列の下流に蛍光タンパク質 をコードする遺伝子を接続したプラスミドDNAをそれぞれ1細胞期胚に顕微注入して検討した結果、ヒト由来のHSPA6のプロモーターは熱刺激なしでは発現が少なく、且つ43℃の熱処理で有意に活性化することがわかった。また1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)でコーティングした金ナノ粒子(DOTAP-AuNRs)とプラスミドDNAの複合体を形成 させ、培養細胞に導入を試みた結果、先行研究と同様に複合体を導入することができた。さらに、プラスミドDNAだけでなく、mRNAやsiRNAについても同様に取り込ませることができることがわかった。しかしながら、マウス受精卵において同様の方法を用いて複合体の導入を試みたが、培養細胞と違いほとんど取り込まれなかった。そこで、金ナノ粒子とプラスミドDNAの複合体を顕微注入によって受精卵の細胞質に導入し、4細胞期で熱刺激を与えたところ、部分的に割球において導入遺伝子の発現が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究により、熱刺激による発現を制御できるプロモーターの探索ができた。さらに、金ナノ粒子を細胞に導入するための1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)によるコーティングの実験系とプラスミドDNAとの複合体形成の実験系が構築でき、培養細胞を用いた実験により遺伝子導入の再現性が確認できた。マウス受精卵への導入については、確認ができなかったが、マウス受精卵は透明帯という特殊な糖タンパク質によって覆われているため、この構造による金ナノ粒子の取り込み阻害が起こったことが予想される。当初の計画でも予想されていたころであり、この糖タンパク質による取り込み阻害を回避するために、金ナノ粒子とDNAの複合体を受精卵の細胞質に顕微注入し、熱刺激を与えた場合は導入遺伝子の発現が確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
受精卵への金ナノ粒子とプラスミドの複合体の導入手法に関しては細胞質への顕微注入を行う予定である。また、導入遺伝子の発現が割球間でばらつきがあったことから、次年度の研究では導入遺伝子をゲノムに取り込ませるためにPiggyBacトランスポゾンベクターを用いる。トランスポゼース発現ベクターと目的遺伝子の発現ベクターおよび金ナノ粒子の複合体を形成させ、その複合体を顕微注入によって1細胞期の細胞質に導入する。その後、受精卵が4細胞期に発生した時点で熱刺激により導入遺伝子の発現を誘導する。すべての割球で発現誘導が確認できた場合は、2細胞期あるいは4細胞期に発生した受精卵の単一割球にレーザー照射による熱刺激を与え、単一割球でのみ遺伝子発現の誘導ができるかどうかを確認する。現時点では導入遺伝子はHSPA6プロモーターの下流に蛍光タンパク質をコードする遺伝子を接続しているが、将来的にはヒストンアルギニンのメチル化酵素を発現する遺伝子を導入し、割球の分化運命決定の実験系を構築する。
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