2019 Fiscal Year Research-status Report
トランスポゾンの挿入によるほ乳類の性決定システムの進化
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19K22388
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
立花 誠 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (80303915)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | トランスポゾン / 性決定 / Y染色体 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究で申請者らは、性決定遺伝子Sry遺伝子座の近傍に挿入されたトランスポゾンがXYマウスのオス化に必須であるという実験結果を得ている。Sry遺伝子そのもの以外でオス化に必須なY染色体領域が存在するという報告は、これまでに例がない。このため、申請者らの発見は世界で初めてのものであり、Y染色体の進化ならびにほ乳類の性決定・性分化システムの進化を探る上で、極めて重要な足がかりとなる。この発見をもとに、申請者らは「トランスポゾンの挿入が、ほ乳類の性決定様式の進化を加速させた」という全く新しい概念の証明に取り組む。ウイルス由来の外来遺伝子の挿入は、遺伝子の翻訳領域や制御領域の機能を破壊することにつながるため、生物にとって極めて危険なものとして捉えられてきた。本研究はこのような既存の考え方を大きく変革・転換させるものであり、挑戦研究として申請するのがふさわしいと考えた。 申請者らは次世代シーケンスを使った転写産物の網羅的な発現解析を行ない、Sry近傍の逆位繰り返し配列(inverted repeat)の中にトランスポゾンに由来する配列が存在することを見いだした。このトランスポゾン由来配列は、Sry遺伝子座のそれぞれ7kb上流と7kb下流に、全く相同な配列として存在していた。興味深いことに、このトランスポゾン由来配列は転写されていることが分かった。発現解析の結果、この配列は胎児期の生殖腺体細胞で一過性に発現しており、Sryの転写様式に極めて酷似していた。本申請課題ではこのトランスポゾン由来配列の構造を明らかにするとともに、マウスの性決定にどのように機能しているのかについて、遺伝学的手法を駆使して明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウスを含む齧歯類のSry遺伝子座の5’側と3’側は、およそ数十kbpからなる相同な逆位繰り返し配列からなる。申請者らは次世代シーケンスを使った転写産物の網羅的な発現解析を行なった。その結果、Sry近傍の逆位繰り返し配列の中に転写されている配列が存在することを見出した。興味深いことに、この配列はほとんどが外来DNAであるトランスポゾンによって占められていた。詳細に解析した結果、トランスポゾンは一種類ではなかった。すなわち、L3(LINEタイプ)、RMEF2(LTRタイプ)、ORR1A2(LTRタイプ)、RLTR42(LTRタイプ)の4種類によって構成されていた。CRISPR/Cas9により、このトランスポゾン領域の破壊マウスを作製したところ、XY個体がメス化することが分かった。Y染色体に性決定遺伝子であるSry以外にオス化必要な領域があることは、非常に興味深い結果であった。これらの研究の進捗状況は当初の計画通りといってよいため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、令和元年度にノックアウトしたトランスポゾン領域と全く相同な領域の欠損体を作製し、その表現型を観察する。これら二つの相同なトランスポゾン領域の機能の重複性、独立性について検証する。さらに、昨年度までに同定した4種のトランスポゾンのうちで、どれがオス化に重要なのかを、各トランスポゾンの変異マウスを作製して明らかにしていく。また、転写されることが重要なのか、あるいは配列自体にも意味があるのかについて検証する。これらの目的を達成するため、a) 転写終結シグナルを任意の部分に挿入してトランスポゾンの転写産物を短くする、b) 転写調節領域に相当するLTR部分のみを欠損させて発現をなくす、c) 発現している非コード領域を別の配列(EGFP等)に置き換える、等の実験を試みる。
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Causes of Carryover |
2019年度は、Sry遺伝子のエンハンサーとして当該トランスポゾン由来配列が働いていることを検証する予定であった。ところがChIP-qPCRの結果、H3K27AcやH3K4me1などのエンハンサー特有のエピゲノム修飾が当該トランスポゾン由来配列に認められなかった。よって当初計画にあった、トランスポゾン由来配列のシスエレメントとしての機能解析実験を中断し、その代わりに当該領域を欠損したマウスの作製実験を進めることになった。よって2019年度には、これらの実験にかかる費用の差額分の未使用額が生じた。 2020年度には当該トランスポゾン配列中のL3、RMEF2、ORR1A2、RLTR42の4種の配列について、それぞれの欠損体を作製し、その表現型を明らかにしていく。2019年度の未使用額は、これら4種のマウス作製のための経費に充てる。
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Research Products
(16 results)