2019 Fiscal Year Research-status Report
液-液相分離によるヘテロクロマチン領域での2本鎖DNA切断修復機構の解明
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19K22410
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 耕三 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (00304452)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 細胞・組織 / DNA損傷応答 / ヘテロクロマチン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、溶液が混じり合わずに分離する現象である液-液相分離と、ヘテロクロマチン領域におけるDNA2本鎖切断修復との関連を明らかにすることを目的とする。ヘテロクロマチン形成に主要な役割を果たすHP1は、最近液-液相分離を起こしてヘテロクロマチン領域を周囲から隔てていることが報告された。一方我々は、HP1の結合分子であり、自身で同定したCAMPが、DNA2本鎖切断の相同組換えによる修復に関与し、かつ液-液相分離を起こすことを見出している。そこで本研究では、CAMP, HP1がどのような条件で液-液相分離を起こし、これがDNA2本鎖切断修復にどのように影響するかを明らかにする。令和元年度は以下のような結果が得られた。 1.CAMP, HP1が液-液相分離を起こす条件の検討 濃度・塩濃度について、昆虫細胞に発現させて精製したCAMPを用いて、CAMPが液-液相分離を起こす条件を同定した。また液-液相分離に必要なCAMPの領域、およびリン酸化の影響について、種々の変異体で検討を行った。さらにCAMPとHP1が液滴に共存することを見出した。 2.CAMP, HP1による液滴形成と相同組換えによるDNA2本鎖切断修復の効率との関連 U2OS細胞において、X線照射や薬剤処理によって生じたDNA2本鎖切断部位をgamma-H2AXの局在等によって可視化し、CAMPの集積を検討した。その結果DNA2本鎖切断が生じた早期においてCAMPの集積が認められた。またCAMPとH3K9me3などのヘテロクロマチンマーカーの局在との比較を行った。さらにCAMPの相同組換えに必要な領域について、種々の変異体を用いた検討によって明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年、溶液が混じり合わずに分離する現象である液-液相分離と、様々な生命現象との関連が注目を集めている。しかし、DNA損傷修復との関連については、ほとんど明らかになっていない。そこで本研究では、我々が同定した分子であるCAMPとHP1による液-液相分離と、ヘテロクロマチン領域におけるDNA2本鎖切断修復との関連を明らかにすることを目的として研究を進めている。これまでのところ、当初の研究計画に従って、以下のように研究が進展している。 1.CAMP, HP1が液-液相分離を起こす条件の検討については、昆虫細胞に発現させたタンパク質を精製することにより、精製したCAMPを用いて液-液相分離の観察が可能になっている。CAMPの濃度や塩濃度を変化させて液滴の形成を観察することにより、限られた条件でのみ液滴が形成されることを確認している。また種々のCAMPの欠失変異体を用いることにより、液-液相分離に必要なCAMPの領域を同定することができた。さらにCAMPによる液滴に蛍光ラベルしたHP1が共存することがわかり、CAMPとHP1が協調して液-液相分離を起こしている可能性が示唆された。 2.CAMP, HP1による液滴形成と相同組換えによるDNA2本鎖切断修復の効率との関連については、U2OS細胞を用いて、X線照射や薬剤処理によって生じさせたDNA2本鎖切断部位へのCAMPの集積を検討した。その結果、DNA2本鎖切断が生じた早期においてCAMPの集積が認められたことから、CAMPがDNA2本鎖切断修復の早期にはたらいている可能性が示唆された。またCAMPとH3K9me3が核内で共局在することが、免疫蛍光染色により明らかになった。さらにCAMPの相同組換えに必要な領域について、種々の変異体を用いた検討によって明らかになっている。 以上より、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果をふまえ、令和2年度は以下のような検討を行う。 1.CAMP, HP1が液-液相分離を起こす条件の検討 CAMPが形成する液滴中に、2本鎖・1本鎖DNA、および53BP1, BRCA1, Rad51などDNA end resection・相同組換えに関与する分子が取りこまれるかどうかを明らかにする。CAMP, HP1の溶液中でのオリゴマー形成については、原子間力顕微鏡(AFM)で確認を行う。 2.CAMP, HP1による液滴形成と相同組換えによるDNA2本鎖切断修復の効率との関連 1. で検討したCAMPの変異体の発現などによって、液-液相分離を起こす条件を変化させた場合の、DNA2本鎖切断部位・ヘテロクロマチン領域とCAMP, HP1の局在の変化、DNA end resectionやDNA損傷修復の変化、X線照射や薬剤処理に対する感受性を検討する。またBRCA1やRad51などのDNA2本鎖切断部位への集積やヒストン修飾の変化等を調べ、液-液相分離がヘテロクロマチン領域におけるDNA損傷応答のどのステップに重要なのかを明らかにする。ゲノムの特定の部位にCRISPR/Cas9によってDNA2本鎖切断を生じさせ、ユークロマチン領域とヘテロクロマチン領域におけるDNA2本鎖切断修復へのCAMPの関与を、CAMPを発現抑制することによって検討する。さらにCAMPに変異を有する知的障害者由来の不死化リンパ球を用いて、放射線や薬剤感受性などを検討し、変異の部位と相同組換え機能・液-液相分離との関連を明らかにする。
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Causes of Carryover |
令和元年度については、主としてこれまでに精製済みであったタンパク質を用いて実験を行ったため、タンパク質の発現・精製に必要な出費が少なかった。またRNA干渉用のオリゴヌクレオチドや抗体類についても、すでに購入済みのものを使用したため、予定所要額よりも実支出額が少なくなった。 令和2年度は、タンパク質の発現・精製、細胞の培養を大量に行う必要があり、またオリゴヌクレオチドや抗体についても新しいものを購入する必要があるため、次年度使用額と合わせて研究を推進する。
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Research Products
(5 results)