2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K22414
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
兵藤 晋 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (40222244)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神田 真司 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (50634284)
高木 亙 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (90755307)
藤森 千加 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (50750775)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 軟骨魚類 / 遺伝子導入 / トラザメ / 繁殖 / 機能解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
軟骨魚類は進化、適応、繁殖など、基礎生物学的にユニークかつ重要な現象をもつことに加え、海洋生態系の高次捕食者として保全や管理という観点からも極めて重要である。これまでに、トラザメやゾウギンザメなどのモデル生物を開発して研究を進めてきたが、サメ研究には遺伝子操作・逆遺伝学的解析ができないという、未だ致命的な手法的制約がある。トラザメは年間を通して比較的多数の受精卵を使用できることや、エコー検査により初期卵を見出すことができるといったメリットがある。そこでこのメリットを生かし、卵割初期卵や発生中の胚へのインジェクション、ウイルスやエレクトロポレーションなどを用いる遺伝子導入により、世界でも初めてとなる軟骨魚への遺伝子改変・逆遺伝学的解析に挑戦する。令和2年度は、卵巣内に存在する様々な発育段階の卵の機能的特徴を把握し、発現している遺伝子の網羅的解析、生殖腺刺激ホルモン受容体やステロイド変換酵素群の発現を調べ、卵胞への遺伝子導入の基礎的知見の蓄積、遺伝子導入モデル器官として卵殻腺の可能性を探った。また、昨年度に引き続きトラザメ細胞の初代培養系を用いて様々な遺伝子導入法を検討したことに加え、トラザメ胚を用いたin vivo遺伝子導入を試みた。世代時間の長さから、世代をまわす遺伝子改変はいまだハードルが高いものの、発生中の胚や卵胞などの生殖器官をターゲットとすることで、遺伝子レベルでの機能改変、機能研究を進める基盤ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)昨年の研究により、卵巣内には様々な発育段階の卵胞が存在し、それぞれの顆粒膜細胞と莢膜細胞ではステロイド産生機能に違いがあることが示唆された。そこで、生殖腺刺激ホルモン受容体とステロイド変換酵素群の発現を調べたところ、卵黄蓄積が進行する前の白色卵胞では濾胞刺激ホルモン受容体とアロマターゼ遺伝子の発現が高いのに対して、卵黄蓄積が進行する緑色の卵胞では黄体形成ホルモン受容体の発現が上昇し、アロマターゼ遺伝子の発現が低下することがわかった。卵胞組織は薄い層状の細胞群からなるため遺伝子導入のターゲットとして有用であり、アロマターゼなど機能の指標とすべき分子の同定もできた。 2)エコー検査と血中ステロイド濃度の測定により、排卵直前に血中プロゲステロン濃度の一過的上昇が起こることを発見した。そこでシリコンチューブを用いてプロゲステロン投与を行ったところ、卵殻腺での蔓形成を引き起こすことがわかった。卵殻腺の蔓形成部位は組織表面に近いと考えられ、プロゲステロン受容体をターゲットとすることで、遺伝子導入実験の良いモデルになると考えられた。 3)トラザメ初代培養細胞を用いて様々な方法でユビキタスなプロモーター配列とGFP遺伝子を含むDNA断片を導入したところ、Lipofectionで最も高い導入効率が得られた。また、エレクトロポレーションおよびバキュロウイルスでも導入が見られ、最適量の検討も進めた。さらには、トラザメ胚を用いることで、in vivoでの遺伝子導入を試みたところ、プラスミド注射後にエレクトロポレーションを行うことで、導入部位の骨格筋細胞などにGFP遺伝子の導入を示す蛍光が検出された。組織学的な解析でもGFPタンパク質の免疫陽性反応が見られたことから、エレクトロポレーションによって効率的に遺伝子導入を行うことができることが示唆された。これらの結果は現在原著論文としてまとめている。
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Strategy for Future Research Activity |
1)遺伝子導入のターゲットとして、新たに卵巣内の卵胞や、卵殻腺を用いる。これまでの研究で、初代培養細胞への導入効率は数%と高くないのに対して、トラザメ胚へのエレクトロポレーションでは骨格筋細胞に比較的高い効率で遺伝子導入が見られた。卵胞組織は薄い層状構造からなること、卵殻腺のプロゲステロン作用も表層に近い部位である可能性があることから、これらの組織が遺伝子導入のターゲットとして適切だと考えるに至った。また、これらの組織では、遺伝子導入による機能改変を評価するための遺伝子や表現型が明確である。たとえば卵胞においては、生殖腺刺激ホルモン受容体遺伝子をターゲットとすることで、アロマターゼ活性や、卵成熟、排卵といった現象を利用して評価できると考えられる。また、卵殻腺の場合には、複数のプロゲステロン受容体の発現を確認しており、プロゲステロン作用を阻害することで、蔓形成への影響を評価する。 2)上記のことを行うため、まずは卵胞組織ならびに卵殻腺の培養系を確立し、トラザメ胚で検討したエレクトロポレーション法などを利用して、遺伝子導入を行う。GFPの効率的な導入が確認されたら、生殖腺刺激ホルモン受容体やプロゲステロン受容体をターゲットとして機能阻害を引き起こすような遺伝子導入を試みる。
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Causes of Carryover |
卵胞組織ならびに卵殻腺でのターゲット遺伝子を検討するため、様々な発育段階の卵胞組織や、卵殻腺の様々な部位でのRNA-seq解析を行った。ただし昨年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、年度前半は研究活動を停止、あるいは縮小せざるを得ない状況が続き、研究全体の進行がずれ込んだ。進捗状況で述べたとおり、有用な情報を多数得ることはできたものの、RNA-seqの実施などが年度末となり、結果が得られるのが次年度となってしまったため、経費の一部を次年度使用することとした。
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Research Products
(10 results)