2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K22427
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
佐々木 洋 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (10211939)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 着床前胚 / 細胞競合 / 細胞分化 / 技術開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
遺伝子変異マウスを用いた遺伝子機能の解析は広く用いられているが、胎生致死になる変異体の7割は胎盤の異常に起因する発生異常を示すため、胚体における遺伝子機能を解析できない。これらの問題を従来の技術で解決するには膨大な時間と労力が必要であり、変異マウスを用いた遺伝子機能研究の大きな障害となっている。本研究では、我々の着床前マウス胚の細胞分化制御機構と細胞の品質管理機構との知見を活用することにより、F0において胚体特異的に遺伝子変異をもつマウス胚を簡便かつ効率よく作り出す技術の開発を目的とした。着床前のマウス胚では、2段階の細胞分化を行い3種類の細胞をつくる。 1回目の細胞分化では、栄養外胚葉と内部細胞隗がつくられ、2回目の細胞分化では、内部細胞隗がさらに エピブラストと原始内胚葉へと分化する。栄養外胚葉は胎盤を作り、エピブラストは胚体を、原始内胚葉は胚体外の組織を作る。 今年度は、まず、2細胞期胚の1つの割球に対して顕微注入を行い、栄養外胚葉の分化に必須なHippo経路の転写因子TEAD4と原始内胚葉の分化に必須な転写因子GATA6のノックダウンをすることで、その細胞が効率よくエピブラストに貢献するかどうか検討した。まず、Tead4、Gata6遺伝子に対する二本鎖RNAとsiRNAとについて、ノックダウン効率を比較し、二本鎖RNAが効率よいことを見出した。そこで、Gata6に対する二本鎖RNAを用いてノックダウンしたところ、ノックダウン細胞のエピブラストへの貢献率が上昇していた。とくに、エピブラストのほとんどがGata6ノックダウン細胞からなる胚がみられ、Gata6抑制細胞ではNanog, Sox2などの多能性因子の発現が上昇することにより細胞競合の勝者となっている可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、ノックダウンの方法としてsiRNAを用いていたが、なかなか安定した結果が得られず、長鎖の2本鎖RNAによるノックダウンで安定した結果を得られることが分かるまでに、予想外に時間がかかってしまった。またGata6は原始内胚葉の形成に必須な遺伝子であることが知られているが、実験をしてみるとGata6は原始内胚葉だけでなく栄養外胚葉でも発現しており、ノックダウン細胞では栄養外胚葉の分化にも弱い異常が出るという、予想外の問題が生じ、計画を変更して予備実験を追加する必要が出たため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのGata6ノックダウンの結果は、エピブラストにおいてGata6ノックダウン細胞が細胞競合の勝者になっていることを示唆しており、期待通りの結果である。その一方で、Gata6は原始内胚葉だけでなく栄養外胚葉でも発現しており、ノックダウン細胞では栄養外胚葉の分化不全になるという問題があることも分かった。そこで、今後は、まず、この問題を回避するために、Tead4も同時にノックダウンしてGata6ノックダウン細胞が栄養外胚葉に貢献しないようにすることで、エピブラストがノックダウン細胞のみからなる胚を効率よく作成する技術を確立する。次に、この方法を用いて、ノックダウンと同時にCRISPR-Cas9のゲノム編集により遺伝子ノックアウトも行い、胚特異的なノックアウトマウスを形成する。そして、このような操作を行った胚を子宮に戻して、胚特異的ノックアウトマウス胚を発生させ、その表現型を解析する。特に、胚特異的なノックアウトができていることの確認と、単純なノックアウトマウスの表現型との相違の有無に注目して解析する。また、胎盤にも異常細胞が貢献してしまう可能性があるため、胎盤に起因する異常の有無にも注目する。
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Causes of Carryover |
遺伝子ノックダウン方法の条件決めに予想外に時間を要したことと、Gata6のノックダウンが原始内胚葉の分化だけではなく栄養外胚葉の分化にも影響があるという予想外の結果が出たために、予備的な実験を追加して行う必要が生じた。そのために実験に遅れが生じ、主たる実験に着手できなかったために、次年度使用額が生じた。一方で、Gata6ノックダウン細胞がエピブラストで細胞競合の勝者になるという重要な点では期待通りの知見を得ており、次年度使用分を用いて、Tead4ノックダウンを組み合わせることで、エピブラストがノックダウン細胞からなるが胚を作成する技術を確立し、翌年度分の助成金において、その技術を用いて、実際に胚特異的ノックアウトマウスを作成して、胚特異的な遺伝子機能の解析を行う。
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