2019 Fiscal Year Research-status Report
R0 centrality based control of epidemic diseases in metropolitan commute networks
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19K22447
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
佐々木 顕 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (90211937)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 伝染病の数理モデル / R0中心性 / 交通流動ネットワーク / 感染のクラスター / 空間構造の異質性 / 移動分散 / 毒性の進化 / 最適防除政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
病原体の感染と進化に関して、通勤通学ネットワークやメタ個体群構造などの空間構造が果たす役割は大きい。本課題では、宿主個体の生息地と活動地域の間の日常的な移動のネットワーク(例えば宿主としてのヒトの首都圏の交通網を用いた通勤・通学ネットワーク)のもとでの、伝染病の流行ダイナミックスの特性と有効な防除策を理論的に明らかにすることを目的としている。伝染病の流行を抑えるための最適な防除において、どこに対策を集中するべきかという問題に対して、R0中心性のコンセプトを用いて理論的に解析した結果、最大の局所R0を持つ流行拠点地域への対策の効果が、第2位・第3位の高R0地域への対策の効果に比べて桁違いに大きくなることが明らかになっている(Yashima and Sasaki 2016)。これらの結果を今回の新型コロナウイルス流行の解析につなげるために、個人の日常活動を、通勤・通学先、飲食店、居酒屋・パブ、イベント会場等、参加規模や感染率の異なるクラスターのクラスに分解し、どのクラスターへの参加率の制限が、R0減少にどう寄与するかについて予測する理論を構築した。 また、複数の感染細胞集団を持つ宿主体内をウイルスにとっての異質性のあるメタ個体群構造ととらえ、ウイルスの増殖と進化を解析する理論を構築した。 さらに、宿主のメタ個体群構造の異質性が、病原体の病原性(毒性)の進化にどのような影響を与えるかという古くから提起されてきた問題に対し、極めて一般的な結論を得た。まず、局所個体群間の宿主移動率に非均一性を導入すると、均一な移動の場合に比べて、病原体の病原性は必ず上昇する方向に進化することが明らかになった。また、与えられた局所個体群間移動率のパターンから定量的に定義される「ソース・シンク構造指標」Dと進化的に安定な病原性(毒性)が近似的に比例するという一般則が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウイルスの進化におけるmultiple tropismの役割、特に宿主体内での増殖と宿主個体間の感染の際に異なる選択圧がかかる現象に着目して、患者に感染した直後のHIV (transmitted/founder virus)と、患者体内での増殖しているHIVとは、大きく異なる方向の選択圧を受けている現象を理論化し、宿主内の増殖と宿主間の感染のサイクルの中で、ウイルス形質の宿主内での進化的逸脱と新規感染による復帰のダイナミクスを明らかした(投稿準備中論文:Kumada R, Sasaki A “Evolutionary dynamics of transmitted/founder viruses: Selection-driven derailments from transmission optimum”)。 また、局所集団間の移住の異質性が、病原体の毒性を必ず上昇させるという、きわめて一般的な結果を発見した(投稿準備中論文:Sato M, Dieckmann U, Sasaki A. Evolution of virulence in a host metapopulation with heterogeneous migration rate: Migration imbalance boosts up pathogen virulence)
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Strategy for Future Research Activity |
初年度までに得られた宿主のメタ個体群動態における流行動態、最適防除政策、病原体の進化に関する摂動展開理論の解析をさらに進め、理論的成果を論文化するとともに、その実践的な妥当性を評価するために、実際のデータを取り入れた大規模ネットワーク構造の疫学動態の数値解析による検証を行う。また、東京およびそのほかの大都市圏の交通流動に関するデータの多様性とサイズはますます増大してきており、これらのビッグデータから理論モデルの予測精度に寄与するパラメータを得るためのデータマイニング等の解析や、大規模シミュレーションを実施するために、計算科学の知識を持つ研究補助者を雇用して研究を推進する。また、実施可能な伝染病防除政策や個々の伝染病の特性等については、厚労省等に所属する疫学の専門家や大学医学部に属するウイルス・微生物の専門家の助言を受ける。
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Causes of Carryover |
雇用した博士研究員の週当たりの雇用日数が予定よりも少ない日数しか確保できなかったため。ただし、次年度以降に振り返ることによって、予定された目的に添った貢献が期待できる。
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