2020 Fiscal Year Research-status Report
R0 centrality based control of epidemic diseases in metropolitan commute networks
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19K22447
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
佐々木 顕 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (90211937)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 伝染病の数理モデル / 抗原変異株の出現 / 免疫からのエスケープ / 毒性の進化 / 宿主空間構造の異質性 / 移動分散 / 最適防除政策 / 形質の分岐 |
Outline of Annual Research Achievements |
インフルエンザA型ウイルスなど変異性の高い病原体は、抗原遺伝子の多様化と高速進化によって宿主免疫から連続的にエスケープする。新型コロナウイルスでも表面抗原遺伝子の異なる多様な変異株が現れており、集団免疫からのエスケープや、ワクチン抵抗性株の出現のリスクが現実的になっている。研究代表者のグループは、このように連続的に抗原の型を変える病原体においては、疫学平衡状態に維持される病原体に比べ、高い毒性(病原性)が進化することを数理モデルによって明らかにした。このような病原体において、遺伝的多様性の蓄積と分断淘汰による形質分岐の同時進行という、複雑な挙動を示すため、従来の理論での解析が困難であったが、代表者が開発した適応進化動態と量的形質遺伝モデルの融合理論(Oligomorphic dynamics --- Sasaki & Dieckmann 2011)を適用することで簡単な解析が可能となった。また、交差免疫のもとでの抗原性の飛躍的進化と、それに伴う毒性の急上昇が起こるタイミングなどを疫学パラメータと遺伝分散パラメータから解析的に予測することも可能になった。この研究成果は現在投稿中である (BioRxiv: Sasaki A, Lion S, Boots M. The impact of antigenic escape on the evolution of virulence. doi: https://doi.org/10.1101/2021.01.19.427227)。 また、宿主のメタ個体群構造の異質性が、病原体の病原性(毒性)の進化にどのような影響を与えるかという問題の解析により、局所個体群間の宿主移動率や環境収容力の不均一性は、進化的する病原体の毒性(病原性)を必ず上昇させるという、極めて一般的な結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
病原体の形質と、宿主の免疫の状態はお互いにダイナミックな影響を与え合い、共進化する。その相互作用は敵対的であると同時に、頻度依存的、ゲーム理論的であり、遺伝形質が分岐して複数の病原体系統に分岐したり、宿主の免疫状態の分布が多極分岐したりという、極めて複雑な挙動を示す。このような複雑な進化ダイナミクスを記述する理論はこれまでなかったが、代表者の開発したOligomorphic dynamics(Adaptive dynamicsと量的形質遺伝学という従来、水と油のように捉えられてきたアプローチを融合する理論体系)により、極めて有効な解析が可能になることが、今回の「抗原連続変異と病原性の同時進化」の解析で明らかになった。また、進化を考える上で、重要であるが扱いが難しかった空間的異質性の効果は、代表者の開発した一様空間構造からの摂動系のR0中心性理論を適用することにより、解析的で予測力の高い結果を得ることができることも、今回の「メタ個体群構造の異質性と病原体毒性の進化」の解析で初めて明らかになったものである。これらの理論的なブレークスルーが当初の計画以上の進展を可能にした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに宿主のメタ個体群構造の異質性が、進化的する病原体の毒性(病原性)を必ず上昇させるという、極めて一般的な定性的結果が得られたが、異質性の程度と進化する毒性の上昇分との間の定量的な関係、複数の異質性が複合した場合の進化への影響などを理論的に明らかにする。これは、異質性のあるメタ個体群の構造を、均一なメタ個体群からの摂動として定式化する、ここまでの理論展開を拡張することで可能になると思われる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の状況で、博士研究員の出勤日数が当初予定より減ったこと、及び研究成果発表、海外共同研究者とのための海外渡航や国内の学会出張等の旅費の支出がゼロとなったことによる。2021年度の使用計画:上記理由で遅れた研究課題の推進のために引き続き博士研究員を雇用する。海外旅行国内旅行が可能になる状況になれば、研究成果発表のための旅費にも利用する。
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Research Products
(7 results)