2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K22449
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
岩田 智也 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (50362075)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野田 悟子 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (80342830)
谷田 一三 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪, 大阪市立自然史博物館, 外来研究員 (20167505)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 酸性河川 / 化学合成 / 食物網 / 硫黄酸化細菌 / 水生昆虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
秋田県焼山周辺の複数の酸性河川を対象に野外調査を実施した。各河川では、水中の溶存成分や溶存ガスの濃度と各種安定同位体比を測定するとともに、バイオフィルム、水生ベントスおよび河畔動物の定量採取と炭素・窒素・硫黄安定同位体比の計測を行なった。 火山性温泉水が流入する3つの河川と森林を流れる中性河川では河川の物理化学環境が大きく異なっており、酸性河川では付着藻類や陸上有機物が著しく少ない環境であることが明らかとなった。それにも関わらず、これらの河川では一部の水生昆虫がきわめて高密度で生息していた。現場培養実験の結果から、調査河川である善助沢では硫黄酸化を行う化学合成微生物が主な一次生産を担っており、それによって底生無脊椎動物群集が維持されている可能性が示唆された。また、化学合成による有機物生産速度は、中性河川における光合成による一次生産速度に匹敵することも明らかとなった。安定同位体分析による食物網解析については現在、分析と解析を進めているところである。 次いで、次世代シーケンサーを用いて酸性河川のバイオフィルムと水生昆虫の腸内微生物の細菌群集構造解析を行なった。その結果、化学合成細菌のなかでもSulfuriferulaなどが優占しており、水生昆虫はこれら硫黄酸化細菌を環境中から採餌しているか、あるいは腸内で共生している可能性も考えられた。河川周辺には、羽化水生昆虫を採餌する捕食者も高密度に分布しており、化学合成を起点とする栄養フローが河川食物網だけでなく河畔の捕食者群集にとっても重要なエネルギー源となっている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画どおり野外調査を実施し、試料処理およびDNA解析等を予定通り実施した。一方で、酸性河川という特異な生態系から採取した試料であることから定量採取した生物試料の同定に時間を要し、その結果、安定同位体分析等の試料準備が計画より遅れることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
COVID-19への対策として、現在、広域野外調査の実施を見合わせている。その代替として、短時間で採取し持ち帰る試料をもとに標識培養実験と環境および腸内微生物のメタゲノム解析を行い、化学合成によって固定された炭素の水生昆虫への移行プロセスを直接的に検証する予定である。COVID-19が収束し野外調査が実施可能な状況となれば、再度現地での調査を実施しデータの補填を行う予定である。このように研究計画についてはCOVID-19の状況に応じて柔軟に変更しながら実施していく予定であるが、当初の研究目的は十分に達成できるものと予想している。
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Causes of Carryover |
当初の計画どおり野外調査を実施したものの、酸性河川という特異な生態系から採取した試料であることから定量採取した生物試料の同定に時間を要した。その結果、安定同位体分析等の試料準備が計画より遅れることとなり、同位体分析にかかる消耗品類や実験機材の購入ならびに分析費用に余剰が発生した。また、水生生物の系統解析についても、一部DNAの保存状態が悪い試料があったことで、予定していた分析が実施できず、余剰が発生した。次年度使用額は、これら研究の遅れによる実験費用に充当する予定である。 また、2020年度にはCOVID-19対策のために広域野外調査が実施できないため、代替として新たに標識同位体培養実験やメタゲノム解析などを計画している。次年度使用額の一部は、これら新規の実験費用にも充当する予定である。
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Research Products
(1 results)