2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K22479
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
照屋 健太 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (30372288)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | プリオン病 / マウス系統 / セルロースエーテル / ミクログリア |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は賦形剤として広く用いられているセルロースエーテルがプリオン感染モデルマウスにおいて、非常に顕著な延命効果をもたらすこと、その効果はマウスの系統でドラスティックに異なることを見出している。本研究はこの違いを手掛かりとし、賦形剤の抗プリオン効果をとおして賦形剤の生体内における不明な作用を探ることである。 令和元年度においてマウス10系統にまでデータを拡張した。本年度においては、12系統にまで解析を拡充し、トランスジーンの挿入が懸念されるため、トランジェネティックマウスのデータは除くこととした。セルロースエーテル感受性は、各マウス系統における治療群と非治療群間のハザード比をもって評価を行っている。結果、プリオン感染時のセルロースエーテルによる治療に対して感受性が高い群と、感受性に乏しい群が見られることが鮮明になった。また、高感受性と低感受性を分ける遺伝子の多型(gmfb 40E/40K)の型によって、各マウス系統のハザード比をもって分類すると、その有意差は0.016となった。一方で、これらのマウスに対するプリオン感染の系統差に対する有意差検定は、0.46であったことからプリオンへの感受性への差ではなく、薬剤に対する応答性であることが明確になった。 これらの結果に基づき、本年度においてはgmfbの上流や下流のシグナル伝達系を調査するためにC6グリオーマ細胞材料として、下流にあるシグナル伝達蛋白であるp38MAPKを大きく活性化する刺激系を見つけ出し、セルロースエーテルとgmfbとp38MAPKの関連を調査する実験系を構築することができたが、三者の関連性を見出すことはできていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の結果を受けてマウス個体レベルから、細胞レベルでの検証に移行する準備ができた。具体的には、C6グリオーマ細胞を実験系に、カドミウムイオンの添加によってp38MAPKのリン酸化が劇的に更新することを見出した。シグナル伝達系においてp38MAPKは、gmfbの下流に位置するとともに、神経変性に関与するとの報告もあるため注目に値すると考えた。本申請研究の目的とは異なるものの、様々な重金属イオンや刺激因子を用いてp38MAPKの活性化を試験したが、効果が一番明確なのはカドミウムイオンであった。また、この系では、stat1はその量の減弱、stat2のリン酸化が更新されていた。stat系はシグナル伝達系のかなり上流に位置するため、プリオンによる神経毒性と関連があるかどうかは不明であるが、興味深い所見であった。 この所見に基づき、C6グリオーマ細胞系においてプリオンの神経毒性をstat系やp38MAPKのようなシグナル伝達系の活性化によって追跡できるかどうかという考えにつながった。具体的な実験計画は「今後の研究の推進方策」の欄に記述する。 先に記述したように、本研究で着目するのはグリア系細胞への刺激に対するセルロースエーテルの保護的な作用がgmfbの多型によってどのように影響を受けるかということに、搾れてきたため、この実験系は有用である。一方で、報告されているgmfbの明確な活性化とp38MAPKの活性化の関連はいまだに検出できていない。C6グリオーマ細胞のgmfb遺伝子型は今のところ不明であるが、gmfbの遺伝子型によってはセルロースエーテル非感受型である可能性も残されている。この検証は容易に実施可能であるが、次年度に持ち越された課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
stat系のシグナル伝達系を用いて、C6グリオーマ細胞がプリオンに対して応答できるかどうかを検証する。セルロースエーテル感受性マウスでは、腹腔マクロファージでTGFbやLPS刺激に対する炎症応答が抑制されている所見が得られていた。これまでの研究結果を受けて、当初計画していたマウス2系統の比較においての実験研究を系統を拡充して実施する。遺伝子解析によって広くgmfbの遺伝子型を各マウス系統で明らかにしたので、gmfb遺伝子型に関連する応答を見つけたいと考えている。 プリオン病は中枢神経系の神経変性疾患であるので、腹腔マクロファージではなく、ミクログリアを対象とし、様々な刺激に対する応答の違いを検証する。ここでは、smad系のシグナル伝達系の活性化、活性化抑制に着目し、ウエスタンブロッティングを中心とした比較研究を行う。これらの蛋白質群の増減や活性化を指標としながら、セルロースエーテルやマウス系統での感受性の違いを生み出す因子を探索したいと考えている。
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