2019 Fiscal Year Research-status Report
Regulation of gut microbiome by extracellular phospholipases
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19K22483
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村上 誠 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (60276607)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 酵素 / 脂質 / 生体分子 / 細胞・組織 / メタボローム / 腸内細菌叢 / がん / アレルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、腸内細菌叢の変容が腸だけでなく遠隔組織の病態にも波及することが注目されている。本研究の目的は、脂質代謝酵素の一群である分泌性ホスホリパーゼA2 (PLA2)のうち、腸管特異的に発現しているアイソザイム(sPLA2-IIA, -X)の欠損マウスが遠隔臓器に表現型を発症することを切り口に、腸管sPLA2が腸内細菌叢の変容を通じて二次的に遠隔臓器に波及している可能性を検証し、腸内細菌叢の調節因子としてのsPLA2の新しい動作原理を確立することである。 sPLA2-IIAと腸内細菌叢:sPLA2-IIAは小腸のパネート細胞に限局発現しており、抗生物質投与により発現が減少した。sPLA2-IIA欠損マウスでは皮膚癌モデル及び皮膚アレルギーモデルが軽減した。これらの表現型は、野生型マウスと欠損マウスを同一ケージで飼育すると消失したことから、腸内細菌叢の変容が表現型の根幹にあると考えられた。腸管のメタゲノム、トランスクリプトーム、メタボローム解析の結果、欠損マウスでは野生型マウスと比べて腸内細菌叢に変化が見られ、免疫や代謝に関わる遺伝子の発現が変化し、細菌固有の脂質代謝物に差が認められた。 sPLA2-Xと腸内細菌叢:sPLA2-Xは大腸上皮細胞に限局発現しており、欠損マウスではDSS大腸炎が増悪する。sPLA2-Xは脂肪組織に殆ど発現していないが、欠損マウスに高脂肪食を負荷すると、肥満増悪の表現型が認められた。高脂肪食負荷は腸内細菌叢の変容を通じて大腸にマイルドな炎症を引き起こすことから、sPLA2-X欠損マウスでは高脂肪食摂取による大腸の炎症が二次的に肥満の表現型に影響を及ぼしているものと予想した。実際、腸管のメタゲノム、トランスクリプトーム、メタボローム解析の結果、欠損マウスでは腸内細菌叢に変化が見られ、免疫に関わる遺伝子の発現が変化し、細菌固有の脂質代謝物に差が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新しい所属機関への異動に伴う欠損マウスの復元に時間を要し、当初の研究計画の一部について遅れが生じている。sPLA2-IIA欠損マウスについては、おそらく飼育施設が変わった影響で腸内細菌叢が変化してしまい、旧施設で観察されていた表現型とは異なる表現型が顕在化している。このことは腸内細菌叢の変容が表現型の根幹にあることをさらに支持する結果ともいえ、両施設での解析結果を照合して総合解釈する必要がある。このことから、sPLA2-X欠損マウスについては新施設でではなく旧施設で飼育している個体群の解析に焦点を絞り、次年度中に統一的見解を出したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの解析を継続・完成させ、小腸のsPLA2-IIA、大腸のsPLA2-Xによる腸内細菌叢制御の新規概念の確立を目指す。具体的には、腸管のメタゲノム、トランスクリプトーム、メタボローム解析により、sPLA2-IIA, -Xそれぞれの欠損マウスについて変容している腸内細菌種、遺伝子、代謝物を同定し、それらが皮膚、免疫系、脂肪組織等に与える影響を精査する。予備的検討では、sPLA2-IIA欠損マウスでは細菌固有のリノール酸代謝物、sPLA2-X欠損マウスでは短鎖脂肪酸が変化することを見出しており、これを証明する。sPLA2-IIAについては、海外研究者(Boilard教授、カナダ)がsPLA2-IIA過剰発現マウスを用いて腸内細菌叢制御に関する相補的研究を実施しており、同時論文投稿を視野に密接な情報交換を行いつつ本研究を推進する。
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Causes of Carryover |
新施設に移動後に解析したsPLA2-IIA欠損マウスの表現型が旧施設で観察されていた同マウスの表現型と必ずしも同一ではないことが判明し、研究計画の一部変更を余儀なくされた。次年度は新施設で繁殖したsPLA2-IIA欠損マウスのメタゲノム、トランスクリプトーム、メタゲノム解析を再実施し、旧施設で得られた結果と照合する。飼育環境で表現型が変わるという事実は、まさに腸内細菌叢の変容が表現型の要因となっていることを支持するものと前向きに捉えている。sPLA2-X欠損マウスについては旧施設で飼育した個体群をそのまま使用し、研究の完成を目指す。明細のごとく消耗品として実験用試薬器具購入費、その他としてマウス飼育委託費、オミクス解析外注費、運送費などに予算を計上するほか、旅費と人件費・謝金を計上する予定である。
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